第9章:ヴィオレッタ、討伐隊入り(正式編) scene1 大会翌日の静けさ ― 違和感
大会が終わった翌朝。
王立エルディナ学園は、驚くほどいつも通りだった。
中庭では生徒たちが行き交い、
講義棟へ向かう足音が石畳に軽く響く。
あちこちで聞こえるのは、昨夜までの興奮の残り香だ。
「いやー、昨日の決勝、やばかったよな」
「まだ頭が熱い……」
笑い声すらある。
それだけ見れば、何も変わっていない。
けれど――
空気が、どこか重い。
校舎沿いに並ぶ魔導街灯が、
昼だというのに淡く明滅していた。
光は消えないが、安定しない。
まるで、呼吸を忘れた生き物のように。
魔導通信端末を操作していた生徒が、首を傾げる。
「……あれ?」
「今、途切れた?」
すぐに復旧する。
だが、それが一度きりではないことに、周囲も気づき始めていた。
「昨日の余韻が冷めないな」
「……魔力、ちょっと変じゃない?」
不安は、まだ言葉にならない。
ただ、ざらついた感覚だけが、学園全体に薄く広がっていく。
その中で、
ヴィオレッタは一人、立ち止まっていた。
人の流れから半歩外れ、
目を閉じる。
意識を、外へ。
魔力の“流れ”が見えるわけではない。
だが、彼女は知っている。
安定している時の感触を。
訓練場で、戦場で、何度も確かめてきた感覚を。
――そして今。
(……ノイズがある)
細く、微弱で、
気づかない者にはただの違和感で済む程度。
だが、それは確かに存在していた。
(流れが、噛み合ってない)
大会の高揚とは、まったく違う。
勝利の余韻とも、緊張の残り香とも、無関係な――
もっと根源的な、不快さ。
ヴィオレッタは小さく息を吐いた。
(これ、事故じゃない)
視線の先、
揺らめく魔導街灯の光が、ほんの一瞬だけ歪んで見えた。
世界が、
静かに軋み始めている。
彼女だけが、
その音を、聞いていた。




