scene3 記憶のフラッシュバック
侍女たちが慌ただしく部屋を出ていき、
静けさが戻った寝室に、蓮はひとり残された。
胸に手を置く。
ずっと鼓動が速い。
だが、それ以上に脳の奥がじんじんと熱くなる。
(……落ち着け。思い出せ……この世界の“元ネタ”を)
目を閉じた瞬間、
脳裏にパッと光が走るように“ゲームの情報”が溢れ出した。
◆ フラッシュバック:乙女ゲーム『エルディナ恋綺譚』
――ヴィオレッタ・ラングレー。
嫉妬深く、ヒロインをいじめる悪役令嬢。
ヒロインが王子と急接近すれば、
彼女は陰湿に嫌がらせを行い、周囲の反感を買う。
そして物語の終盤。
王子の前で罪状を読み上げられ、
彼女は民衆の前で――公開処刑される。
「……処刑エンド……」
蓮は顔をしかめ、両手で頭を抱えた。
(いやいやいや! そんなバッドエンドまっすぐ向かってるキャラの体に入ってどうすんだ俺!?)
さらに別のルートの記憶がよみがえる。
◆ 回避ルート①:王子の好感度MAX
ヴィオレッタが努力して王子に認められ、
最後に「誤解だった」とか「実は優しい」とかで助けてもらうルート。
◆ 回避ルート②:国外逃亡イベント
序盤からコツコツフラグを立て、
有力者の助力を得て、夜陰に紛れて国外へ。
失敗すると追っ手に捕まるハードモード。
(この二つしか、生き残る方法がなかったんだよな……)
蓮はベッドに座り込み、深いため息をついた。
● 心情の転換点
「そんな面倒なこと……するか! 俺が?」
思わず声に出た。
王子の好感度管理?
好感度イベント?
丁寧な言動で周囲の印象操作?
「ムリムリムリ! 死ぬほど性に合わねぇ!」
次に国外逃亡。
「コソコソ逃げ回って、隠れて暮らすとか……絶対イヤ!」
そこまで言って、蓮の脳裏に“別の道”が浮かんだ。
――この世界は、魔法とサバゲーが融合した世界。
――魔導銃も魔法障壁も、蓮が大好きだった“戦闘技術”の延長線。
(……あれ? 俺、普通に戦ったほうが早くないか?)
心臓が高鳴る。
ぞわりと背中が熱を帯びる。
「俺にはもっと簡単で確実な方法がある」
蓮はゆっくりと立ち上がり、
鏡越しに自分――ヴィオレッタの姿を見つめた。
黒紫の髪が揺れ、その瞳が決意を宿す。
「戦闘力を上げて、物理的に生き延びる!」
強い。速い。狙撃精度も高い。
しかも魔力まで使える。
(むしろ……この身体、ポテンシャルめっちゃ高いんじゃね?)
悪役令嬢という最悪のスタート地点だが――
蓮にとっては天職のような環境だった。
「よし、方針決定。
この世界……サバゲーで生き残ってやる!」
鏡台の上に置かれた赤い魔導銃のミニ模型が、
朝日を受けてきらりと光った。
まるで“新しい戦いの幕開け”を告げるように。




