scene2 侍女たちの恐怖反応
ぎ……ぃ、と音を立てて寝室の扉が開いた。
朝の光が差し込む中、三人の侍女が慎重に足を踏み入れる。
しかし彼女たちは顔を上げない。
まるで猛獣の檻に入るかのように、肩を震わせている。
「ヴィ、ヴィオレッタお嬢様……お、おはようございます……っ」
声が裏返っていた。
侍女Aは白い手をぎゅっと握りしめ、
侍女Bは目に見えて腰が引けている。
侍女Cに至っては、入室した瞬間から泣きそうだ。
その異様な反応に、蓮は固まった。
(こ、これ……そんなに怖がられるほど、性格悪かったの?
いや、ゲームでも“超高圧的で部下に当たり散らす”って設定だったけどさ……
実際に目の前で震えられるとつらいな!?)
侍女たちは視線を床に固定したまま、口々に報告を始めようとする。
「お、お嬢様の本日のご予定は……っ」
「え、えっと……ご機嫌を損ねぬよう……っ」
蓮は慌てて両手を振った。
「あ、あの! おはよう。えっと……いつも朝から働いてくれて、ありがとう」
部屋に静寂が落ちた。
侍女たちが、ぴたりと動きを止める。
ゆっくりと、ぎぎぎ……と錆びた機械みたいに顔を上げ、
三人とも“信じられないものを見た”表情になった。
「……え?」
「え……? え……??」
「お、お嬢様が……優しい……?」
侍女Cの膝がぱたんと床につき、今にも気絶しそうだ。
(いやいやいや、そんなに!?
普段どんだけ横暴だったんだよヴィオレッタ……!)
蓮は苦笑しつつ、もう一度ゆっくりと優しく言う。
「本当にありがとう。無理しないで、ゆっくりでいいから」
侍女たちは顔を見合わせ、口元を手で押さえ、
まるで「世界の終わりの宣告」を受けたような顔をする。
「……ど、どなたですか?」
「お嬢様が……お嬢様じゃない……?」
「まさか……憑依……?」
(おい待て。気付かれるな! まだ序盤だぞ!)
蓮は心の中で全力でツッコミを入れつつ、
自分の胸に手を当てて現実を確認する。
細い体。
高級ドレスの感触。
鏡に映った悪役令嬢の顔。
(マジか……俺、本当に“乙女ゲームの悪役令嬢ヴィオレッタ”に転生したのか……?)
ぞくりと背中に冷たい汗が流れた。
(この世界の設定、どこまで覚えてたっけ……
処刑イベントは確実にある。
で……サバゲーが“必修授業”なんだよな?
うわ、どうしよう……いや、むしろそこで生き延びるチャンスあるじゃん!)
目の前の侍女たちは、まだ震え続けている。
「えっと……とにかく、今日は穏やかに行こうね? 大丈夫だから」
笑いかけると、侍女たちは三者三様に赤面するか、混乱するか、また震える。
(……あー、これ完全に“中身が別人”と思われるやつだ。
ちゃんと演技しないと怪しまれるな……!
いやでも、優しくしてダメな理由ないしな……?)
蓮は心の中で小さくため息をつき、
これから待つ人生の荒波――処刑フラグとの戦いに備えるのだった。




