scene5 レオンの視線 ― 「奇妙な変化」
午後の授業が近づき、
生徒たちがぞろぞろと訓練場へ向かう時間帯。
王子レオン・アルフォンスは、
学園中央テラスの手すりにもたれながら、
ゆっくりと中庭を見下ろしていた。
風になびく金の髪は、陽光を受けて静かに輝く。
だが、その瞳は冷静というより──警戒に近かった。
視線の先にいるのは、
仲間と話しながら歩く黒髪の少女、ヴィオレッタ。
ほんの数日前まで、
彼が「婚約者」と呼ばれるその少女は──
・高慢
・高圧的
・自尊心だけが異様に高い
そんな“悪役令嬢”として知られていた。
しかし今、彼女は。
ミリアに笑顔を向け、
シエラと落ち着いた調子で会話し、
ガイルには困惑しながらも楽しそうに対応している。
まるで、人が入れ替わったように。
レオンは、わずかに目を細めた。
(戦闘技術が変わった……いや、人間性まで変わっている)
彼の観察力は、王族として鍛えられた鋭いものだ。
昨日のサバゲー授業でも、
彼は訓練場に姿を見せずとも、
複数の視点からヴィオレッタの動きを確認していた。
結果──
(あの射撃は……素人ではありえない)
フォーム、反応速度、判断力。
すべてが、数年間鍛錬した兵士のそれだった。
(だが、あのヴィオレッタが……?)
違和感は日に日に大きくなるばかりだ。
今日の彼女の立ち居振る舞いもそうだった。
通りがかった生徒へ自然に挨拶を返し、
侍女たちにも丁寧に礼を言い、
無駄に怒鳴り散らすこともない。
まるで別人。
レオンは腕を組み、内心で呟く。
(この数日の変化は……一体、何だ?
“更生”という言葉では片づけられない。
むしろ──性格が根本から別だ)
風がひゅうと流れ、
ヴィオレッタの黒髪をさらりと揺らした。
レオンの胸に、
ほんの一瞬、奇妙な感情が生まれる。
懐かしさでも、恋情でもない。
もっと別の……
「目を離せない相手」を見たときの感覚。
(まるで……違う魂が入っているようだ)
そう考えるには、あまりに荒唐無稽だ。
しかし王子は、もう「偶然の変化」とは思っていなかった。
レオンはテラスから離れながら、
静かに確信を深めていく。
(ヴィオレッタ……
君は、もう“あのヴィオレッタ”ではない)
そしてその確信は、
後に彼自身の運命を大きく揺るがすことになる──。




