scene3 シエラの観察 ― 「あなた本当に初心者ですか?」
昼休みも終盤に差し掛かり、生徒たちがまばらに中庭を去っていくころ。
ミリアと別れたヴィオレッタ(蓮)は、再びベンチに座ろうとしていた。
そのとき──
背後からするり、と風のような気配が近づく。
「……ひとつ、聞いてもいいですか?」
すぐ後ろに立っていたのは、白銀の髪を肩で切り揃えた少女だった。
クールな目元に、研ぎ澄まされた気配。
天才スカウトとして名高いシエラ・フォルト。
彼女は音もなく接近し、
まるで“隙を突いてきた”かのようだった。
蓮は思わず身構える。
「わっ、びっくりした……」
シエラは感情の読めない声で続ける。
「昨日の授業。あなた……“敵の射線”を避けていましたよね?」
蓮の心臓がドキッとなった。
(あぁ……やっぱりこういうタイプは気づくか……!
スカウト職って、索敵と分析のプロだからな……)
シエラの鋭い銀の瞳が、真正面から蓮を射抜く。
「普通は、敵がどこにいるかも分からず、
ただ撃たれて混乱します。でも──」
彼女は一歩踏み込む。
「あなたは“来る方向”と“撃ってくるタイミング”を読んで動いていた。
初心者の動きではありません」
蓮は苦笑しつつ、なんとか自然にごまかそうとする。
「あ、あれは……その、偶然というか……
まぁ、たまたま?」
「たまたま、ではありません」
即答だった。
まるで断罪のように鋭いが、そこに敵意はない。
むしろ──純粋な興味が宿っている。
シエラはさらに距離を詰め、低く囁く。
「あなた……誰に教わったんですか?」
蓮は冷や汗をかく。
(誰って……現代日本のサバゲーゲーマー仲間です、なんて言えるわけないし!
どうしようこれ……)
「ええと……独学、みたいな?」
シエラはわずかに眉を動かした。
「独学であの動きができるなら──
あなたは、生まれつき“戦場の感覚”を持っています」
(いや違う!完全に趣味の経験値!)
しかし蓮の心のつっこみなど知る由もなく、
シエラはわずかに頬に手を当て、分析を続ける。
「射線の感知。
足音と魔力の揺らぎから敵位置を割り出す能力。
そして、無意識に最適な移動ルートを選ぶ判断──」
彼女は小さく息を吐く。
「……ただ者では、ありませんね」
蓮は完全に観念した。
(この子、ガチで観察力高すぎる!
ていうかこの世界のスカウト職みんなこんな感じなの!?)
だが、次のシエラの言葉は予想外だった。
「……だから、安心しました」
「え?」
シエラは静かに微笑む。
さっきまで鋭かった表情が、ふっと柔らかくなる。
「ヴィオレッタ様は……本気で戦える方だと分かったので」
その瞳は、まるで“同じ戦場を見ている者”へ向けられる敬意だった。
蓮は思った。
(いや……これ、なんか誤解されてない?)
だが──
その誤解が、この先大きな“縁”となっていくことを
このときの蓮はまだ知らなかった。




