scene6 ヴィオレッタ本人 ― 変わらない日常
夕暮れの学園フィールド。
低い陽射しが、可動式の遮蔽物に長い影を落としている。
乾いた魔力弾の発射音。
被弾判定の軽い光。
後輩たちの声が、楽しげに飛び交っていた。
「左、出る!」
「いや、射線切れてる!」
「待て、制圧ポイント優先だ!」
まだ荒削りだが、確かに“考えて戦っている”音だった。
ヴィオレッタはフィールドの端、フェンスにもたれて腕を組み、静かにそれを眺めている。
口は出さない。
手も出さない。
――今日は、見るだけ。
隣に立つ人物が、ふと息をついた。
「……君が始めた世界だな」
レオンだった。
王子の装いではなく、学園の制服姿。
夕方の光の中では、ただの一人の青年に見える。
ヴィオレッタは視線をフィールドから外さず、淡々と返す。
「違いますよ」
レオンがこちらを見る。
「私は、ルールを読んだだけです」
後輩の一人が不用意に前に出て、即座に被弾判定が光る。
観戦席から、惜しむ声と笑いが起きた。
ヴィオレッタは、ほんの一瞬だけ口角を緩める。
一拍置いて、続けた。
「遊び方を、間違えなかっただけ」
その言葉は、誇りでも謙遜でもなかった。
事実を述べただけの、静かな自己評価。
レオンは小さく笑う。
「それが、一番難しいんだ」
風が吹き、フィールドの魔力旗が揺れる。
後輩たちは再配置し、また次の模擬戦を始めた。
勝ちたい。
でも、無駄に倒したくはない。
全員で、最後まで立っていたい。
その思想は、もう彼女の手を離れている。
ヴィオレッタはそれを見届けながら、心の中で静かに思う。
(……うん)
(ちゃんと、育ってる)
世界を救った英雄は、今日も戦場の外に立ち、
ただ“正しい遊び方”が続いていくのを見ていた。
それで十分だ、と。




