scene4 世界大会の兆し ― 遊びが国境を越える
王立エルディナ学園。
かつては使われていなかった旧訓練場の一角が、今や常に人の気配で満ちていた。
その日、普段とは明らかに違う空気が流れていた。
学園正門前に並ぶ、見慣れない紋章付きの馬車。
異国の意匠をまとった魔導装束。
帯剣の位置、立ち姿、視線の置き方――すべてが「外」の人間だと物語っている。
「……視察団?」
生徒の一人が、息を潜めて呟いた。
魔導院職員に案内され、彼らは訓練フィールドを見下ろす観測席へと向かう。
視線の先では、学園サバゲー部の訓練が進行中だった。
遮蔽物が動き、
索敵魔法が淡く走り、
魔力弾が交差する――だが、誰も倒れない。
「被弾判定、確認」
「後退。射線、切れてる」
淡々とした声。
冷静すぎるほどの判断。
それを見ていた、他国の魔導士が小さく息を呑んだ。
「……これは、戦争じゃない」
「だが、戦争よりも合理的だ」
その言葉に、隣にいた騎士が低く頷く。
「我々の国では、正面突破が美徳だ」
「だが……この戦い方なら、兵は死なない」
その日の午後。
魔導院中央塔の会議室では、非公開の議論が行われていた。
議題は一つ。
――国境を越えた、模擬戦の実施。
「名称はどうする?」
「“世界戦術交流会”が妥当でしょう」
別の高官が続ける。
「非致死・非破壊戦闘規範を前提とする」
「魔力弾は統一規格。威力上限も明文化する」
「勝敗条件は?」
「殲滅ではなく、制圧と達成条件型で」
それは、もはや大会の構想だった。
学園に戻ったその情報は、瞬く間に生徒たちの間を駆け巡る。
「……世界大会?」
「サバゲーで?」
最初は冗談のような反応だった。
だが、教師たちの表情は真剣で、否定の言葉は誰からも出なかった。
フィールドの端で、その様子を眺めていたヴィオレッタは、ひとり肩をすくめる。
(まあ、そうなるよね)
遊びとして成立したルールは、
安全で、
再現性があり、
そして何より――誰も死なせない。
だからこそ、国境を越えられる。
(世界規模でも、ちゃんと“ルール戦”は成立する)
彼女はそう確信していた。
剣や魔法で争ってきた世界は、
今、初めて「戦わないための戦い方」を共有しようとしている。
その始まりが、
学園の片隅で始まった“サバゲー”だったという事実を、
まだ世界は知らない。
だが、その波はもう、止まらなかった。




