scene2 ミリアとの接触 ― 「優しい……?」
午前の授業が終わり、昼休みの中庭。
噴水の水音と、初夏の風が心地よく響く。
ヴィオレッタ(蓮)は、ひとりベンチで軽くストレッチをしていた。
昨日の授業で感じた身体の変化を確かめるために、自然と体が動く。
(魔力の流れ、まだぎこちないけど……
慣れたらもっと安定しそうだな。
午後の授業も楽しみだ)
そんなふうに軽く腕を伸ばしていたときだ。
「あ、あの……ヴィオレッタ様、でしょうか……?」
おそるおそる声がかかった。
振り向くと、金色のふわりとした髪をした少女──
ヒロインであるミリアが立っていた。
大きな翠色の瞳、ぎゅっと抱えた教科書。
その姿は、ゲームで見た“泣かされる側”のヒロインそのもの。
だが今の彼女は──
「逃げる準備」をしながら話しかけてきていた。
(そりゃそうだよな……
ゲームのヴィオレッタは、この子をいじめ倒してたもんな……)
蓮は内心ため息をつきつつ、
できるかぎり柔らかい声で返す。
「うん? どうしたの?」
ミリアはびくっと肩を跳ねさせた。
だが、深呼吸をして勇気を振り絞る。
「き、昨日の授業……!
ヴィオレッタ様のお姿、すごくて……その……」
言いづらそうに視線を落とし、
しかし決意したように顔を上げた。
「あ、あのっ!
もしよろしければ……サバゲーのこと……教えて、いただけませんか!」
声は震えていたが、瞳は真剣だった。
ヴィオレッタ(蓮)は拍子抜けした。
(え、そんなことで来たの?
……てか、めっちゃ健気なんだけど)
蓮は即答した。
「いいよ?」
ミリアの目が大きく開かれた。
「え……?」
「いや、むしろ気軽に呼んで。教えるの好きだし」
ミリアは、その言葉を理解するのに数秒かかった。
そして──
頬を赤く染め、ぎゅっと胸の前で手を握りしめる。
「ゆ、優しい……!
わ、私、てっきり……怒られるかと……」
「怒らないよ。そんな暇あったらエイムの練習するし」
「エ、エイム……?」
(……あ、通じないかこの世界)
ミリアは小さく笑った。
控えめで、けれど心が緩むような笑みだった。
「……ヴィオレッタ様って、そんなふうに笑う方だったんですね……」
その一言に、蓮の胸がきゅっとなる。
(違うんだよ。
俺が勝手に入ってるだけで……
本物のヴィオレッタは、お前にひどいことしたんだよな)
でも──この世界で、
“泣かされる少女”をそのままにはしたくない。
蓮は軽く頭をぽりぽりとかいて、
「まぁ……これからは、よろしく」
と照れくさく言った。
ミリアは大きく頷き、
まるで花がほころぶような笑顔を見せた。
「はいっ! よろしくお願いします、ヴィオレッタ様!」
その瞬間──
ゲームで“敵対関係”だったはずの二人の距離が、
すっと自然に近づいていった。




