scene8 ― 英雄であっても、彼女は彼女
夕暮れの学園フィールドには、風の音しかなかった。
昼間は訓練生の声で満ちる場所も、今は誰もいない。
踏み固められた土と、使い込まれた遮蔽物。
ヴィオレッタはその中央に立ち、慣れた手つきで魔導銃を構えた。
的を置く。
距離を測る。
射線を確認する。
一つひとつが、呼吸と同じくらい自然な動作だった。
(世界は安定)
魔力の流れに、もう歪みはない。
あの神殿の重圧も、魔王の気配も、確かに消えた。
(評価も安定)
英雄。
戦技英雄。
王国特別称号。
頭では理解している。
だが、胸の奥ではどこか他人事だった。
(じゃあ、次は――)
彼女の視線が、的の中心に静かに定まる。
引き金を引いた。
短い乾いた音。
魔力弾が真っ直ぐに走り、的の中央を撃ち抜く。
着弾の衝撃が、フィールドに小さく響いた。
ヴィオレッタは銃を下ろし、結果を確認してから、満足そうに息を吐く。
世界を救った英雄は、
その翌日も変わらず――
勝つための準備をしていた。
恋よりも。
称号よりも。
拍手よりも。
彼女の心を掴んで離さないものがある。
それは、
ルールを読み、最適解を選ぶという戦い。
ヴィオレッタ・アルマリクは、
今日も変わらず、サバゲーを愛している。




