第2章:噂の広がり ― 「悪役令嬢が強すぎる」 scene1 噂の広がり ― 「悪役令嬢が強すぎる」
王立エルディナ学園の朝は、いつもよりざわついていた。
廊下を吹き抜ける風と一緒に、ひそひそ声が飛び交う。
「ねぇ、聞いた? 昨日のサバゲー実技……」
「見た見た。あれ本当にヴィオレッタ様だった?」
「偏差撃ちしてたよな……? しかも移動しながらだぞ」
「いや、というかあの人……王子の婚約者だろ? 戦闘狂扱いでいいのか?」
「最近、雰囲気も変わってない? なんか普通に“怖くない”っていうか……」
まるで風に乗って色んな噂が学園中を駆け巡っていた。
その中心人物であるヴィオレッタ──中身は相場蓮──は、
“まったく気づかない”という平和な顔で廊下を歩いていた。
朝の光を受けて淡く揺れる黒髪のカール。
ゆったりとした歩幅、機嫌のよさそうな表情。
その姿を見た生徒たちが、一斉に道をあける。
「……え、なんか今日もオーラすごくない?」
「いや違う、あれは“強者のオーラ”だよ」
「昨日のあのスライド射撃……思い出すだけで震える」
逆にヴィオレッタは、避けられていると思って肩を落とした。
(え……また距離置かれてる?
せっかく中身入れ替わって優しくしてるのに……
“悪役令嬢リセット”ってそんな簡単じゃないのか?)
だが実際には、
「(近くで見たら撃たれそう)」
「(あのエイムの人を刺激したくない……)」
「(いや……むしろ教わりてぇ……)」
という、妙な“尊敬と畏れ”が混じった評価が広がっていた。
女子生徒のひとりが、手に持ったノートをぎゅっと握りしめてつぶやく。
「……すごい。あれが本物の貴族の戦い方……なのか?」
いや違う、と蓮は心の中で静かに突っ込んだ。
(違う、これは現代日本のサバゲー技術……!
いや、でも説明しても信じないよな……)
そんなことをぼやきながら歩くヴィオレッタの横で、
また別の噂が飛び込んでくる。
「ねぇ、誰か聞いた? 王子レオン殿下が昨日の授業を“個人的に視察”してたらしいよ」
「まじで? 婚約者の動き、気になってるってこと?」
「そりゃあ……婚約者が射撃で覚醒したら警戒もするだろ……」
(やめて、俺の社会的立場に誤解が生じてる……!)
しかし当の本人は、
“強者としての威圧感”を自然に纏ったまま通り過ぎていく。
視線が集まっていることは、うっすら感じる。
けれど、そこに“憧れ”が混ざっていることを──
まだヴィオレッタは知らなかった。




