第13章:勝利と世界再編 scene1 魔力安定 ― 世界の“静寂”
神殿の奥深くに満ちていた、あの濁った光が――消えた。
まるで長い悪夢が、静かに息を引き取ったかのように。
天井を覆っていた魔力の奔流は霧散し、床に刻まれた古代紋様は、ただの石へと戻っていく。
空気が、軽い。
吸い込んだ瞬間に分かるほど、魔力が“正しく”流れていた。
暴走も逆流もない。強すぎず、弱すぎず、世界に馴染んだ循環。
「魔力安定、確認」
「偏向値、正常域に復帰」
「封印機構、再固定を確認しました!」
騎士と魔導師たちの声が、次々に重なる。
誰かが歓声を上げることはなかった。
ただ、全員が同じことを理解していた。
――終わったのだ、と。
魔導院の研究員が、震える指で魔導計測板を見つめる。
「魔力循環……完全に安定しています」
「異常偏向、消失。再発条件も検出されません」
一拍、間を置いて。
「……魔王再出現の可能性は、ゼロです」
その言葉は、討伐報告よりも重かった。
敵を倒したのではない。
世界そのものを、元に戻したのだ。
誰かが、ぽつりと呟く。
「これは……“勝利”というより……」
「修復だな」
前例のない形の決着。
剣でも、魔法でもなく、
世界の歪みそのものを正した戦い。
その少し離れた場所で、
ヴィオレッタは魔導銃を下ろし、静かに息を吐いた。
(……ちゃんと終わった)
胸の奥に、張りつめていた何かが、ようやくほどける。
(これで、二周目はない)
コンティニューも、やり直しもない。
世界は――この一周で、完了した。
彼女は何も言わず、ただ安定した魔力の流れを感じていた。
それが、何よりの「クリア表示」だった。




