scene7 魔力弾過熱式フィニッシュ ― 世界修復の引き金
魔力中枢が、剥き出しになった。
神殿の床が割れ、
幾重にも重なっていた制御陣が露出する。
空間が、悲鳴を上げていた。
魔力偏向率――
臨界点、目前。
このまま一秒でも遅れれば、
世界の循環は不可逆領域へ落ちる。
だが。
ヴィオレッタの呼吸は、乱れていなかった。
「……今」
彼女は魔導銃を引き寄せ、
側面の制御刻印に指を滑らせる。
魔力弾・特殊設定。
切替完了。
――過熱式。
短時間限定。
銃身が耐えられるのは、一発のみ。
威力は通常の数倍。
代償は、精密制御の喪失。
狙いを外せば、
神殿ごと吹き飛ぶ。
ガイルが息を呑む。
「……それ、やばいやつじゃ……」
ミリアが即座にバリアを最大展開する。
「一発だけですよね……?」
ヴィオレッタは、視線を中枢から外さない。
「ええ」
「一発で、終わらせます」
魔王が叫ぶ。
「やめろ!」
「それを撃てば――私は……!」
ヴィオレッタは、はっきりと答えた。
「分かっています」
「あなたは“倒される”んじゃない」
「維持できなくなるだけです」
狙うのは、魔王ではない。
神殿の中枢制御核。
魔力循環を偏向させ、
魔王という“例外”を成立させている――
世界側のスイッチ。
ヴィオレッタは、引き金に指をかける。
(勝利条件は)
(撃破じゃない)
(再起動)
発射。
世界が、白く染まった。
過熱された魔力弾が、
一直線に空間を焼き切る。
命中。
中枢制御核が、
悲鳴のような音を立てて軋む。
次の瞬間――
逆流。
偏向していた魔力が、
一斉に押し戻される。
神殿全体の魔導陣が反転し、
制御式が強制的に書き換えられていく。
「――システム、再起動」
誰かが、呟いた。
魔王の身体が、揺らぐ。
輪郭が崩れ、
“世界の一部”だった存在感が、急速に薄れていく。
「……そうか」
魔王は、静かに笑った。
「これが……正しい攻略か」
その声は、怒りでも、怨嗟でもなかった。
「お前は」
「世界を壊さずに、勝った」
次の瞬間。
魔王は、霧のように崩れ、
魔力の流れへと還っていく。
消滅ではない。
解体。
存在条件を失った、必然の帰結。
神殿の揺れが、止まる。
空間の歪みが収束し、
重力も、光も、正常な振る舞いを取り戻していく。
偏向率――
ゼロ。
完全正常化。
ヴィオレッタは、銃を下ろした。
銃身から、白煙が立ち上る。
(……成功)
短く、そう思った瞬間。
足から、力が抜けた。
だが、倒れる前に。
レオンが、しっかりと支える。
「……終わったな」
ヴィオレッタは、微笑った。
「ええ」
「ノーコンティニューで」
世界は、救われた。
誰かを倒したからではない。
ルールを読み、正しい条件で勝ったからだ。
そしてその引き金を引いたのは――
サバゲーで「勝ち方」を知った、
一人の悪役令嬢だった。




