scene6 射線管理 ― 神を撃たせない戦い
魔力が――膨張した。
空気が震え、
神殿そのものが軋む音を立てる。
魔王が、腕を広げた。
詠唱が始まる。
それはこれまでとは質が違った。
一点突破でも、範囲攻撃でもない。
広域殲滅。
神殿全層を巻き込み、
敵味方の区別なく消し飛ばす――
“神が振るう”類の魔法。
騎士たちの顔色が変わる。
「まずい……!」
「止められるのか、あれを……!」
だが。
ヴィオレッタは、一切迷わなかった。
「――撃たせない」
静かな声だった。
だが、その一言で、戦場の意味が変わる。
彼女は魔導銃を構える。
狙うのは、魔王の核でも、頭でもない。
詠唱ライン。
魔法が成立するために必要な、
・魔力の流れ
・意識の集中
・空間内の“通路”
そのすべてを――
射線として捉える。
「シエラ、ライン予測」
「了解! 三本、来ます!」
次の瞬間。
ヴィオレッタは引き金を引いた。
一発。
二発。
三発。
魔力弾は、魔王に当たらない。
だが――
空間が、歪んだ。
詠唱途中の魔力が分断され、
流れが“繋がらない”。
魔王の声が、わずかに乱れる。
「……?」
詠唱を続けようとする。
その瞬間――
さらに一発。
今度は、魔法陣の縁を掠めるように。
成立条件が、崩れる。
魔力が暴発しかけ、
魔王自身が詠唱を中断せざるを得なくなる。
騎士たちが、言葉を失う。
「……魔王に」
「魔法を……撃たせていない?」
クロス隊の誰かが、息を呑む。
「攻撃してないのに……」
「戦ってる……?」
魔王が、苛立ちを隠さずに言う。
「貴様……」
「なぜ、私を狙わない」
ヴィオレッタは答える。
「あなたを撃つ必要はありません」
「あなたが“撃てない場所”にいればいいだけです」
それは、
サバゲーで何度も行ってきた判断。
撃破より、制圧。
殲滅より、管理。
射線を握った者が、戦場を支配する。
魔王は、初めて理解した。
この女は――
神を殺そうとしていない。
神に、何もさせない戦い方をしている。
詠唱は、もう始まらない。
始めた瞬間に、
“成立しない”ことが分かっているからだ。
ヴィオレッタは、銃口を下げない。
撃たないために、
いつでも撃てる位置を保ったまま。
戦場に、奇妙な静寂が落ちる。
それは恐怖ではない。
支配だった。
神ですら、
自由に力を振るえない戦場。
その中心に立つのは――
一人の令嬢。
引き金よりも先に、
勝利条件を理解している指揮官だった。




