第1章:悪役令嬢に転生しました scene1 目覚め ― 「知らない天井」
――まぶしい。
瞼をわずかに持ち上げた瞬間、相場蓮は思わず息を呑んだ。
視界いっぱいに広がったのは、見慣れた六畳の天井ではなく、
白銀の刺繍が織り込まれた豪奢な天蓋だった。
「……は?」
寝返りを打つと、ふわりと沈み込む柔らかすぎるベッド。
肌触りの良いシーツが腕を包み、周囲には整然と並べられたドレスや宝石箱。
ありえないほど高級で、どこを見ても“現代の男子高校生の部屋”ではない。
「いや誰だよ!? 俺ん家、こんなファンシーじゃない!」
跳ね起きて周囲を見回し、ようやく姿見の鏡に自分の姿をとらえた。
そこにいたのは――長い黒紫の髪をゆるく巻き、
透き通るような白い肌の、凛とした美少女だった。
「え……俺、女の子になってんの?」
蓮は目をこすり、もう一度鏡を覗き込む。
何度確認しても、鏡の中の少女は自分の動きに合わせて瞬きをしている。
髪を指に絡める。さらりと落ちる黒紫の髪が、見覚えのある色だった。
「いや、この髪色……見覚えあるんだが……」
頭の奥がずきりと痛んだ瞬間――
昨日遊んでいた乙女ゲーム『エルディナ恋綺譚』のキャラが脳裏に浮かんだ。
(……もしかして、ヴィオレッタ・ラングレー?
あの悪役令嬢の、黒紫の髪と赤い瞳……?)
信じたくないが、鏡の少女はまさにその姿だった。
混乱する蓮がベッドを降りると、鏡台の上に小さな光が反射しているのが見えた。
近づいて手に取ると、掌に収まるほどの“魔導銃のミニ模型”だった。
深紅のボディ。王家専用モデルの象徴とされる紋章。
ゲームで何度も見たレオン王子の愛銃を、
精巧に縮小したような造り。
「え……なんで、こんなものが?」
胸騒ぎがした。
この世界がゲームと似ているどころではない。
――完全に、ゲームの中だ。
蓮は模型をそっと置き、深呼吸をした。
「落ち着け。とりあえず状況整理だ……」
鏡に映るのは悪役令嬢。
ここは彼女の部屋。
そして、彼女は物語の最後で――処刑される。
蓮の背筋に、ひやりとした感覚が走った。




