第5話:駅伝大会
12月に入ったばかりだけれどかなり冷えている。
わたしたちは競技場の観客席にいた。
高校駅伝の地方大会――今年はわたしの学校も、人数不足のために他校と合同で「連合チーム」のメンバーの一員として出場している。
連合チームというのは、異なる高校同士がチームを組む事で駅伝大会に参加可能とするもので、部活動に参加する生徒数自体減っているので、地方では「連合チーム」による大会参加が増えているのだと友人から聞いていた。
その連合チームを応援する為、わたしもクラスメイトと一緒に声を張り上げていた。
今はスマホで各区間の中継を追える時代だ。
空を飛ぶ中継ドローンが、選手を間近に捉えて鮮明に映し出している。
画面の端には順位や区間タイムもリアルタイムで流れる。
――けれど、正直言って。
わたし達が参加している連合チームの走りに期待していた人は多くなかった。
県内でも強豪と言われる名門校に比べれば、どう見ても力不足だから。
それでも、タスキはつながっていった。
五区の時点では遂に1位になった。
ただ、残念ながら六区で強豪校2校に抜かれてしまって3位に下がってしまった。
そして、最終区の七区に入る。
最終区は五区に次いで区間距離が長い。
「お、もうすぐウチの連合チームがタスキリレーするよ!」
隣で友達が身を乗り出した。
わたしも画面に目を凝らした――そして、心臓が止まりそうになった。
タスキを受け取ったのは――あの人だった。
「えっ……うそ……」
川沿いで何度もすれ違った、あの無口なランナー。
高校ジャージ姿を見て少し距離を感じていた、その人が。
今、わたしの学校が入っている「連合チーム」の最終走者として走り出していた。
前を行くのは、全国大会常連の名門校たち。
普通なら逆転なんてまず無理――誰もがそう思っていた。
そもそも連合チームが今の順位である事自体が大健闘だ。
けれど。
彼は違った。
ドローン中継がその姿を映し出すたびに、歓声が広がっていく。
肩の揺れない、無駄のない美しいフォーム。
呼吸も一定のまま、じりじりと前との差を詰めていく。
「な、なんだあの走り……!」
「勝ちにいこうとしているのかな?」
観客席がどよめく。
わたしも息ができなかった。
あれほどの走りを、間近で見るのは初めてだったから。
そして――競技場に入り、いよいよトラック周回に入る。
そこで奇跡が起きた。
3位からの猛烈なスパート。
1位と2位の選手たちがお互いを牽制している間に一気にその差を詰め、スタンドが揺れるほどの歓声が響く。
そして―ゴール間際で、一気に1位と2位の間を割って抜き去った。
「う、うそでしょ……!?」
「抜いた!? もしかして勝ったの?」
順位は――1位。
参考記録だから正式な順位にはならない。表彰もない。
けれど、その瞬間の衝撃は、すべての人の胸を打った。
競技場が割れるような拍手に包まれて、彼はゴールテープを切った。
その瞬間に天に指を指して、まるで連合チームの勝利を宣言しているようだった。
彼の仲間たちが駆け寄る中、周囲に淡々と何かを指示していた。
(どうして……)
勝ったのに。
あれほどの走りを見せたのに。
そんなに冷静にしていられるの?
胸が締め付けられた。
遠い。
ますます、遠すぎる。
けれど、目を離せない。
わたしの視線は、その背中を追い続けていた。




