第4話:高校ジャージの距離
夕方の川沿い。
茜色に染まった空の下、わたしはいつものようにジョギングしていた。
――そして、見つけた。
あの人だ。
でも、今日は少し違う。
彼は、高校ジャージを着ていた。
胸元に入った校章。地元の名門公立進学校名が、はっきりと縫い込まれている。
これまで普通のジャージ姿しか見てこなかったから、その一瞬でわたしは息を呑んだ。
(……やっぱり、わたしとは違う世界の人なんだな)
そう思った。
自分でも驚くくらい、胸がぎゅっと締め付けられた。
わたしがこの4月から通っている公立高校は、県内の所謂中堅校と言われている。進学実績も大した事はないし、何が目立つものがある訳でもない。
中学生の頃も、そもそも特に進学について家で会話はなかった。わたしの成績がクラスの中で「中の上」程度だったという事で、なんとなく受験した、そんな高校だ。
同じ学年でトップクラスの子が稀に行ける、そんな高校。
彼が身につけていた高校ジャージの学校名がそれだ。
だからこそ、余計に。
同じ川沿いを走っているだけなのに、彼が遠くに行ってしまった気がした。
すれ違う瞬間。
彼はいつも通り、小さく会釈をしてくれた。
けれど、それが逆に心をざわつかせる。
(どうして……そんなに自然に“距離”を置けるんだろう)
わたしは笑って返したつもりだったけど、頬がこわばっているのが自分でもわかった。
彼は振り返らない。
背筋を伸ばして、淡々と走り去っていく。
その姿は――ますます「特別」に見えて、わたしはただ立ち尽くした。
(……あの人は、きっとわたしには手の届かない人なんだ)
そう思うほどに、目が離せなくなる。
わたしの胸の奥に、小さな棘のような感情が刺さったまま、抜けなかった。




