第3話:(幕間)堤防の夕暮れ ― 一之石 孝和
堤防の上に立って、川を眺めていた。
夕陽に照らされた水面は赤く揺れているのに、胸の内はひたすら重かった。
そのとき、背後から声が落ちてきた。
「……コウくん」
振り返れば、結奈だった。
結奈とは学校では口をほとんどきかない関係になっていた。というよりも、気安く誰かと話すことなど無くなって久しい。
ただ、平日にオレがジョギングしている時に、結奈が待ち構えている事がある。そんな時に二言三言だけ会話をするのが、オレ達のほとんど唯一の接点となっている。
「どうした」
問いかけると、彼女は一歩踏み出して、静かに言った。
「……わたし、今度の生徒会長選挙に立候補しようと思うの」
思わず眉が動いた。
「生徒会長? 結奈が?」
「うん」
結奈は頷き、視線を逸らさず続けた。
「今の学校は停滞したまま。『堕ちた古豪』って言われて、皆どこか諦めてる。……だから変えたいの。絶対に変えてみせる」
その声音は真剣だった。
だが俺には――別の意味に聞こえてしまう。
(……オレにも変わって欲しいという事か)
心の奥に鈍い痛みが走る。
変えられない事だってある。そもそも、どう変われというのだろう。
「無駄だよ」
俺の口から出たのは、それだけだった。
「……え?」
「人はそう簡単には変わらない。簡単に人が変わると思わない方がいい」
吐き捨てるようにオレは言った。
「……コウくんは変わろうとは思わないの?」
「変えようがない事だってある」
結奈の表情が曇り、目に涙がにじむのが見えた。
ああ、また傷つけてしまっている。
わかっていても、止められなかった。
「やめて……そんな言い方……」
声が震えていた。
「わたしは……昔みたいに……」
言いかけた言葉を飲み込むように、結奈は唇を噛んで背を向ける。
泣き顔のまま、堤防を静かに下りていった。
俺は追わなかった。追えるはずがなかった。
沈みゆく夕陽を見つめながら、唇が勝手に動く。
「……もう赦されることなんて、ないんだ」
それは、誰に向けたわけでもない。
ただ自分を縛りつけるための呪いの言葉だった。




