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第1話『ペンを持った異世界人』

「……打ち切り、ですか?」


編集者の言葉に、神谷ユウトの視界がぐにゃりと歪んだ。

売れないまま3年、ようやくもらった短期連載。

週3でバイト、睡眠2時間で描き続けた。


その結果が、「読者アンケート不調」での打ち切り通告。


――帰り道、交差点の信号が赤から青に変わる。


(もう、何を描いても……意味なんか、ない)


虚ろな足取りで道路を渡るそのとき。


「……ッぶない!」


トラックのクラクションが、夜空を裂いた。



気がつくと、空が青かった。

けれど見覚えのない森の中、見たことのない鳥が空を舞い、空気に魔力のようなものが漂っている。


「ここ……どこ?」


懐に手をやると、なぜかGペンとスケッチブックだけが残っていた。


(まさか、転生!?)


……いやいや、そんなバカな――と思ったが、突然、頭にメッセージが浮かぶ。


《スキル【無限描写インク・マスタリー】を獲得しました》


(なんだこのゲームみたいなノリ!?)


混乱する間もなく、背後から足音。

現れたのは、農具を構えた村人たちだった。


「魔族か!? それとも放浪の魔術師か!?」


「ち、違います! 俺は神谷ユウト!人間です!」


「ならば証を見せよ。この世界に属する者であると……!」


(証って言われても、こっちが聞きたいわ!)


だが次の瞬間、脳裏に“描け”という衝動が走る。

気がつけば、ユウトは手元のGペンで村長らしき老人の姿を描いていた。


――3分後。完成した一枚のスケッチが、白紙から浮かび上がる。


「これは……わしの姿か……!? なぜこんなに若く、笑って……?」


老人が手を触れた瞬間、スケッチから光が溢れ出す。

その光が、彼の体を包み――


「う、嘘じゃろ……!? この腰痛が……治っておる!!」



それは、「感情を写し取り、現実に影響を与える」ユウトのスキルによるものだった。

村人たちは驚き、恐れ、そして――


「救世主様じゃ!!」


彼を“神の描き手”として、村は歓喜に包まれる。


「ちょ、ちょっと待って!? 俺、ただの漫画家なんだけど!?」


だが、この世界に娯楽は少なく、“描く”という行為は一部の高位魔術師にしか許されていない。

ましてや、感情を呼び覚まし、癒しすら与える絵など――


ユウトのペンは、まだただの道具にすぎない。

だがこの瞬間、異世界を動かす伝説が、たしかに始まったのだった。


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