表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/8

第六話 新しい仲間

 

 しまった、と思った時にはもう遅かった。


「……ん?何か今、音聞こえたくねぇか?」


 鋭い声でそう言ったのは、あの銀髪の男の人だった。


 その鋭い視線が、私が隠れている木の方へと、まっすぐに向けられた。


 その瞬間、あの女の子とばっちり目が合ってしまった。


 私は咄嗟に、これ以上見つからないようにと、大きく茂った木の幹の影へと、慌てて身を隠した。


 どうしよう、見つかっちゃった。


「私が確認してくるね」


 女の子の、声が聞こえた。

 足音が、ゆっくりと私が隠れている木に近づいてくる。

 もう、逃げられない。



 少女は、私がうっかり落としてしまった、山菜の束をそっと拾い上げた。

 そして、それを不思議そうに眺めた後、ゆっくりと私のいる木の上を見上げる。


 そのとき、また、彼女と目が合ってしまった。

 今度は、もっとはっきりと。


 彼女の瞳は、綺麗な琥珀色をしていた。


「……迷子?」


 静かな森に、彼女の優しい声が響いた。

 その声には、警戒心よりも純粋な心配の色が滲んでいた。



 なんだか、胸の奥がじんわりと温かくなるような、そんな感覚。


 こく、と小さく首を縦に振る。

 それが、今の私にできる精一杯の返事だった。


 すると少女は私に手招きをした。


「大丈夫だから、降りておいで」とその目が語っているようだった。


 一瞬、頭をよぎったのは、異世界ものの小説でよくある展開だ。

 こうやっておびき寄せて捕えられたり最悪の場合、殺されてしまったりするんじゃないかって。


 でも、この子の笑顔を見ていると、そんな心配は杞憂な気がした。


 この世界の人間も、きっと、そんな鬼畜みたいな人ばかりじゃない。……そう信じたい。


 その安堵感に、全身からふっと力が抜けていくのを感じた。


 私は、残っていたきのこや山菜を落とさないようにしっかりと抱え直し、ゆっくりと、慎重に木を降りていった。


「カリナ、何かあったのか?」


 奥から、心配しているような男の人たちの声が聞こえる。

 彼らの声には、私への警戒心と同時に、何が起こっているのか知りたいという、微かな好奇心も含まれているように感じられた。


 地面に降り立った私を見て、カリナと名乗った少女は、優しく微笑んでくれた。


「私がパーティーに来て、大丈夫なの?」


 私は、思わずそう尋ねていた。


 だって、この三人は、すごく仲が良さそうに行動していたから。

 チームワークもきっと完璧なんだろう。


 そんなところに、素性もわからない私みたいなのが突然入ったら、邪魔になってしまわないか、すごく心配だった。


 ただでさえ、見慣れない私が入ることで、彼らの完璧なバランスを、私が崩してしまうんじゃないかっていう不安が……。


「うん、心配ないよ。みんな、根は優しいから」


 彼女に促されて、私は草木の陰から、おそるおそる顔を出した。

 焚き火の向こう側で、二人の男性が、じっと私を見つめている。


「こ、こんにちは~……」


 頑張って絞り出した声は、自分でも驚くほど小さくて、か細かった。


 やっぱり、ちょっと、いや、かなり気まずい……。


 視線が痛い。

 特に、銀髪のチャラそうな人と、黒髪のリーダーっぽい人。

 二人とも、すごく真剣な顔で、私を頭のてっぺんからつま先まで、品定めするように見つめている。


 その視線に耐えられなくて、私は無意識のうちに、腰をかがめた。


「……もしかして、獣人族か……?」


 黒髪の男性が、ぽつりと小さく呟いた。


 すっかり、忘れてた。

 私、猫耳と尻尾が生えてるんだった。


 一人でいることに慣れすぎて、この耳と尻尾が自分の一部だってこと、当たり前になりすぎてた。

 人間じゃないってわかったら、やっぱり警戒されちゃうかな。


「私も、この子が誰なのかは詳しくは分からないけど、すごく困ってるみたいだったから」


 カリナちゃんが、男の人たちのほうに向き直って、何かを一生懸命に話してくれている。

 彼女が、私を庇ってくれている。そのことが、ひしひしと伝わってきた。


 感謝の気持ちで、胸がいっぱいになる。

 この世界に来て、初めて、誰かの優しさに、ちゃんと触れた気がした。


 小さな彼女の背中が、今はすごく、頼もしく見える。


 しばらく何かを話していた後、赤色の鎧を着た男の人、ゼインさんと呼ばれていた人が、少し困惑したような顔で、でもどこか諦めたように言った。


「……まあ、カリナがそう言うなら、俺はいいけど。リアムはどうだ?」


「ああ、俺も平気だ。むしろ、面白そうじゃないか」


 話が、まとまったらしい。



「ってことで、決定!君は、今日から私たちの臨時パーティーメンバーね!細かい事情は、後でゆっくり聞くから、まずはお腹もすいたし、早くお昼ご飯を食べよう!私たち、ちゃんと調味料も持ってるから、もっとおいしくなるよ!」


 そう言うと、カリナは私の隣にやってきて、いきなりぐいっと肩を組んだ。


 びっくりした。

 この子、距離感が最初からすごく近いなぁ……!


「あ……は、はい」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ