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第3話 拠点づくり

 

 まずい、このままだとあっという間に夜になっちゃう。

 森の夜なんて、考えただけでもぞっとする。


 視界もほとんど効かなくなるだろうし、どんな危険な魔物が出てくるかわからない。

 このまま、誰にも会えずにゲームオーバー、なんてことになったりして……。


 いやいや、弱気になったらダメだ!まだ終わってない!


 どうしよう。


 今からでも、夜を安全に越せる場所を確保しないと。


 その時、目の前にひときわ大きな、立派な木があるのが目に入った。


 幹の太さも、天に届きそうな高さも、周りの木とは比べ物にならない存在感を放っている。

 あの木の上なら、もしかしたら安全かも。



 地面にいるより、高いところにいた方が夜行性の魔物にも襲われにくいだろう。

 よし、決めた。


 今日の寝床は、あの木の上にしよう。


 幸い、子供の頃の私は近所でも有名な「木登りのプロ」を自称していた。

 裏山で、猿みたいに毎日のように木登りして遊んでたんだ。


 それに、今の私は前よりずっと身軽で、バランス感覚もいい。

 これくらいの太さの木なら、きっと登れるはず!


 まずは、簡易的な寝床を作るための材料集めからだ。

 近くに落ちている、手頃な太さの枝を何本か拾い集める。


 それから、細い枝や丈夫そうなツルもいくつか確保した。


「ふんっ!」


 思ったより、楽に枝を運べる。

 やっぱり、この体になってから、前よりも力持ちになった気がする。


 よし、これくらいあれば足りるかな。


 集めた材料を抱えて、目的の大きな木の根元へと向かう。


 幹に背中を押し付けるようにして、手と足でしっかりと体を支えながら、じりじりと登っていく。

 うん、いける!


 そんなことを考えながら登っていると、ちょうどいい感じに太い枝が分かれている場所を見つけた。

 なんとか横になれそうな、平らなスペースがそこにはあった。


 ここを、今日の私のベースキャンプにしよう。


 持ってきた太い枝を数本、床の土台になるように渡していく。


 その上に細い枝を格子状に組んで、隙間をツルでぐるぐる巻きにして固定する。


 最後に、地面から集めてきた乾いた落ち葉をたくさん敷き詰めて、ふかふかの即席ベッドを作った。


 作業に夢中になっていると、あたりはいつの間にかすっかり暗くなっていた。


 静かな夜の風が吹いて、葉っぱがさらさらと優しい音を奏でている。


「ふぅ……できた!」


 我ながら、なかなかの出来栄えだ。


 せっかくだから、完成したばかりのマイホームのルームツアーをしちゃおう。


 えー、こちらの物件は、大樹の中腹という自然豊かな最高のロケーションにございます。


 中に入りますと、そこには畳2枚分ほどのリビング兼ベッドルームが広がっております。


 床には最高級の落ち葉をふんだんに使用しており、クッション性は抜群でございます。


 そして、この物件の最後の目玉は、何と言っても屋上から望むパノラマビューでございます。



 私はさらに身軽に木の上へと登っていく。


 一番てっぺんの枝に立つと、視界が一気に開けた。

 この森全体が、一望できる。


 見渡す限り、月の光に照らされた緑の海が、どこまでもどこまでも広がっていた。


 ……でも、その海の果ては、やっぱり見つけられなかった。


 街の明かりのようなものも、どこにも見えない。


 本当に、この広大な森から、私は出られるのかな。


 また、ずしりとした不安が胸をよぎる。


 ため息をつきながら、ベースキャンプまで戻ろうとした、その時だった。


 ふと、眼下に広がる木々の下、その深い暗闇の中に、たくさんの小さな光が点滅しているのが見えた。


 まるで、夜空の星が地面にこぼれ落ちてきたみたいに、キラキラと幻想的に輝いている。


「これは……ホタル?」


(ホタルがいるっていうことは……近くに、清らかな水源がある証拠)


 そう、テレビで見たことがある。


 ホタルは綺麗な水辺にしか住めないって。


 ってことは、この近くに、きっと川か泉があるはずだ。

 ひっそりと湧き出る、美しい水が、きっとどこかに。



 そう思った瞬間、私の体は勝手に動き出していた。

 もう、じっとしてなんていられない。


 よし、行ってみよう。

 夜の森は危険だってわかってるけど、このチャンスを逃すわけにはいかない!



 光蟲の光が届かない、深い闇の中へと足を踏み入れる。


 足元はほとんど見えない。

 木の根に何度も足を引っ掛けて、つまずきそうになりながら、それでも必死に進んだ。


 私の新しい耳は、かすかな水の音を捉えようと、ぴん、と立っている。

 鼻も、湿った土の匂いの奥にある、澄んだ水の気配を探していた。



 根拠のない、でも妙に確信のある直感に従って、暗闇をかき分けるように進む。


 ちょろちょろ……。

 微かな、本当に微かな水音が、耳に届いた。


「……あった!」

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