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第1話 ヘビ?

 

 土と雨上がりのような湿った葉っぱの匂いが鼻の奥をくすぐる。


 視界に飛び込んできたのは、薄暗い、見知らぬ森の景色だった。


「…………へ?」


 ……うん、落ち着こう、私。

 本当に召喚されたんだ…。


 まずは今のこの状況を一つ一つ確認していこう。

 私は見知らぬ森の中にたった一人で立っている。


 次に持ち物。


 右の手には一本の木の棒がいつの間にか握られていた。

 ただの棒じゃなくて、先端に小さな緑色の葉っぱが二三枚ついている。


 ちょっと可愛らしいけどこれが何なのかはさっぱりわからない。


「はぁ……」


 大きなため息が静かな森に吸い込まれていく。

 とりあえず何か行動しないと。


 このままここで突っ立っていてもお腹がすいて、日が暮れて夜になったらきっともっと怖くなる。


 まずは何をすればいいの?


 そうだ、まずはこの木の棒が何なのかちゃんと確かめてみよう。


 武器になるのか、それとも何か別の使い道があるのか。

 それによって今後の立ち回りが大きく変わってくるはずだ。


 棒を目の前にかざしてじっくりと観察する。


 うん、やっぱりただの木の棒にしか見えない。

 でも不思議と手にしっくりと馴染む感じがする。


 武器としての性能を試してみよう。


「やーっ!!」


 近くの木の幹に向かって、思いっきり振り下ろしてみる。


 カツンと乾いた音が響いただけ。

 木にはもちろん傷一つついていない。私の手が少し痺れただけだ。


「ていやっ!!」


 もう一回。


 はぁ……。

 なんだこれ……。


 これ、本当に魔物みたいな危険な生き物が出てきたら一瞬でやられちゃうんじゃないかな。


 そういえば癒しの力を貰ったんだった。

 もし本当に魔法が使えるとしたらどうやって使えばいいんだろう。


 自分を傷つけて試してみる?

 いやいや、それはちょっと。



 やるべきことはまず一つ。

 人里を見つけてそこにたどり着くまで安全な場所を探しながら進むこと。

 そうと決まれば早速出発。



 ……と、威勢よく一歩踏み出そうとしたはいいものの。

 肝心の、どっちに進めばいいのかがわからない。



 ぐるりと360度、見渡す限り、木、木、木。


 景色が全部同じに見えて方向感覚が完全に麻痺しそうだ。


 どうしよう。

 本格的に、完全に詰んできたかもしれない……。



 その時だった。

 ふと、自分の足元に落ちる影に奇妙な違和感を覚えた。

 細長くてくねくねと動く影が伸びている。


 え……?

 ヘビ……!?


 間違いない。この影の形、このくねくねとした動き。

 私のすぐ背後に大きなヘビがいる……?

 さっきから感じていた、背後で何かが動いているような気配はこれだったんだ。


 いつの間に?


 どうしよう、どうしよう、どうしよう!


 ここで悲鳴を上げて逃げ出したらきっと追いかけてきて、ガブリだ。


 でも、まだ攻撃してこないってことは様子をうかがってるのかもしれない。


 まだチャンスはあるはず。


 落ち着け、落ち着くんだ。


 私の手には、武器(?)がある。

 攻撃力は期待できなくても、何もないよりはマシなはずのあの木の棒が……。

 頼りなさすぎるにも程があるけど。


 でも、今の私にはこれしかないんだから信じるしかない。


 作戦を立てよう。

 気づいていないフリをあくまで自然に続ける。


 そして、ゆっくりと、本当にゆっくりと振り返る。


 その瞬間に、ヘビの頭をこの木の棒で……力いっぱい、ぶったたく!


 一撃で仕留められなくてもいい。

 怯んだその一瞬の隙に、全速力で逃げるんだ!




 心の中で自分を奮い立たせ、意を決し私は勢いよく後ろを振り返った!


「はっ!!」


 自分でも驚くほどの気合の声を上げる。


 ……あれ?


 振り返った先には、何もいなかった。

 ただ、静まり返った森の地面がそこにあるだけ。


「え……?」


 まさか、一瞬の隙に逃げられた?


 もう一度自分の足元に視線を落とす。


 ……影はまだそこにあった。


 え、どういうこと?

 本体はいないのに、影だけがあるなんて、そんなことって……。


 もしかして、これってヘビじゃない……?



 恐る恐る自分の背中の方に視線を移していく。


 そしてついにそれが見えた。


 私の腰のあたりから、一本のふさふさとした茶色い尻尾が生えていた。

 毛足の長い、見るからに柔らかそうな毛並み。


 それが、私の意思とはまったく関係なく、まるで生き物のように左右にゆらゆらと揺れている。


「……………………えぇっ?」


 待って。

 一回落ち着こう。深呼吸。



 これはたぶん私自身の体から生えている。


 嘘でしょ……。


 信じられない気持ちのまま、自分の頭に手を伸ばしてみる。


 いつも通りの、自分の髪の毛の感触。


 ……と、思ったのも束の間。

 指先に、何か柔らかくて、ふわふわした、今まで感じたことのない感触が……。

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