第8話:分断
その日は少し肌寒い朝であった。
朝を知らせる寺の鐘が
その日は
なにかをともらうような響きに感じられた。
軍師は目を細め…
王城の窓から戦が行われているであろう方角を見た。
手が震える。
軍師は震える手を抑え
気持ちの落ち着くお茶を飲んだ。
数十分ほどし…
軍師は指示をだした。
「分断せよ」
この指令で
軍師は「川・橋・山道」をすべて利用し、残りの軍を3つに“分断”する。
2本の火矢が放たれ
二つの橋は落ちた。
早朝ということもあり
その事に気が付くものは少なかった。
―――――――――――――――
その頃
帝国軍の歩兵部隊は
自分達が分断され
その命が風前の灯火であることなど
想像もせず。
ただ…のんびりと朝食を食べていた。
「今日の朝粥はなんか少し苦いな」
「まーなんか野草でも入っているだろう。
俺は好みだな。もう一杯貰いに行こう」
「俺も行く」
そんな余裕すら感じられる
光景があちらこちらで広がっていた。
それが急展開するのは1時間後
「腹が…」
あちこちで腹を抑え
もだえる兵士たちの姿があった。
部隊の兵士全員が草むらに走り込む…
兵士たちは腹痛に魂を奪われ、
命の綱である兵糧は誰の守りもなく
完全に無防備になった。
そこに忍び寄る3つの影
油のにおいが微かに充満する。
3つの影が消えて
数分後
外から火矢が打ち込まれた。
火は勢いよく燃え広がり
兵士たちの命の綱は
灰とかしていった。
帝国軍の兵士たちは
腹を抑え
ただ燃え尽きる食料を
呆然と見守るしかなかったのだ。
―――――――――――――
各地で
腹痛と兵糧の焼き討ちが相次ぎ
兵士たちの食料は一気に
その数を減らした。
そこに
「第〇大隊が裏切った。
この兵糧の焼き討ちは
仲間がやった事だ」
「第〇大隊の隊長が
商人に兵糧の横流しをしている。
この兵糧の焼き討ちは
それをごまかすためにやった事だ」
などの噂が流れた。
もともと大隊同士というのは
それほど仲が良くない。
仲が良くないというより
手柄を奪い合う関係上
常に一触即発の雰囲気はあった。
それを抑えていたのが
先に亡くなった2人であった。
嫌われながらも。
上手く立ち回り
帝国軍のムードメーカーになっていたのだ。
それがない今
そして…
現実食料のない中。
この手の噂は
火薬庫にロウソクをもって入るようなものである。
ただ現実問題
ここは敵地…。
冷静に対処しようと
話し合いの場がもうけられた。
普段は犬猿の仲ではあるが
ここは戦場
しかも緊急時
仲が悪いなどと言ってられない。
大人の理解の上
隊長たちはよそ行きの笑顔で身を飾る。
そして握手をしようとした
瞬間
ひゅん―――
一本の矢が放たれた。
大きな男がばたりと倒れる。
―――辺りが静寂に包まれる。
「隊長が撃たれた。やはり騙された。やられるぞ」
と大声がした。
皆が一斉に剣ややりに手を伸ばす。
緊張のピークにあった話し合いの場は
一本の矢によって
まるで雪崩が崩れるかのように
瓦解した。
あちこちで怒声がする。
興奮で我を失った、
牡牛のように…。
皆が猛りくるう。
ほんの数日前まで
味方であったものは
一瞬で
仇敵と化したのであった。
金属と金属のこすりあう
不快な音が鳴り響くなか
それから数時間がたった。
話し合いの場
有効の場であったはずの
その草原は真っ赤に染まった。
それはまるで
赤い彼岸花で満開になった園のようだった。
辺りには
鉄のにおいと
底冷えする冷気が流れていた。
数時間後その場から
複数の黒い影たちが
立ち去るのが見えた。
彼らは口々に
経を唱えていた。
彼岸をともらう僧のように…。
同士討ちの連鎖は
まるで燃え広がる炎のように
帝国軍全体に広がっていく。




