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第6話:戦わずして勝つ

その頃王城では

王女が軍師と二人でお茶を飲んでいた。


緊張した面持ちで王女はこう切り出した。

「軍師殿…。

こんなことを私が聞くのは…。

ダメなのはわかっていますが。

それでも一つお聞かせください。

今回の戦さ。

勝てますか?」


その声には

隠してはいるが

若干の怯えが感じられた。


無理もない。

この年齢の少女が

300人

いや王国1万の民の命を

その細い肩に背負っているのだから。


軍師は窓の外を眺めながらこういった。


「…王女よ。

戦わず勝つといいますが、今回…私達は戦ってはまず勝てません。

ですから、必ず戦わずに勝つことを考えなければなりません」


「戦わずに勝つですか…。だからこれまで様々な策を講じられたのですね」


「そうです。王女が村々を回ったのも…

すべては戦わずに勝つためです」


「だいじょうぶでしょうか」


「それは神のみぞ知ること。

我々は最善を尽くし、

仕掛けを作るのみ。

そして王女。

あなたのお仕事は、

この国の運命を信じ…

民を信じ…

己を信じること…

そして最後の一瞬

その刹那まで

信じ切ることにございます」


「そうですね。

しかし軍師殿は

お強い…

私など手が震えて

3か月前から

ちゃんと眠れないのです」


王女はそういって目を伏せた。

自分の弱さを恥じるかのように…。


「王女。

私の手を触ってみてください」


軍師は優しいまなざしで、そのごつごつした手を差し出した。


軍師は知性派で物腰こそ柔らかいが

長年農作業をしていただけあって

その手は働く男の手であった。



王女は透き通るような白く…

そして緊張により冷たくなった手で

軍師の手をにぎる。


「あっ…あなたも震えているのですね」


王女は、己の胸の奥から

熱い高揚感が沸きだつのを感じた。


その感情は

安心感と親近感

そしてなにか甘酸っぱいような

色を感じさせるものであった。


軍師は苦笑いをし…。

こういった。


「私は元来…おくびょうなのです」


その目には悲しみと憂い

そして

必ずこの国を守るという

たしかな決意が宿っているかのように

王女は感じた。


この方は

必ず

この国を守ってくださる。

私を…。


そして彼女の決意も固まった。


――――――――――――

その頃

王国の郊外では…


帝国軍1万が始めの橋を渡り切っていた。


その姿を確認した伝令は

狼煙をあげる。


それから1時間ほど経過したのち


「ではまず…一番目の橋を落とせ」


軍師はそう命令をした。


伝令は弓兵に伝わり、一番目の橋は落とされた。


ガガガガガ…

すさまじい音を立て

橋は崩壊した。


確認に同行していた設計技師は

ほっと胸をなでおろす。


なにせ

橋を丈夫に作ることには

努力をしてきたが…

破壊する

しかも

一発の火矢で崩壊するように

どこを調整したらいいかなんて

習ったことも聞いたこともない。


長年の経験で導きだしたものだったのだ。


最悪…

作業を手伝ったトビ職人と共に

自力で橋を壊す予定だった。


しかしそれも気取られては

身の危険すらある。


そんなギリギリのところで

彼らは勝負に臨んだのだった。


かくして

1本の橋が設計技師、老兵、トビ職人の手により

落された。


この瞬間…

たったこれだけの事で

帝国軍

1万は帝国の補給路と連絡路を絶たれた。


帝国軍が

黒い魔物たちの牢獄に閉じ込められた瞬間であった。


しかし…。

帝国軍側では

退路が断たれたことに

だれ一人気が付かなかった。

当然だ。

これから戦…。

しかも勝ち戦に向かうのに

だれも後ろなど振り返らないからだ。


そしてそもそも

退路が絶たれることなど

想定すらしなかったからだ。



――――――――――――

その頃

帝国では

夜な夜な奇怪な鳴き声がする。

とその噂でもちきりだった。


警備兵が見回るが

何一つ怪しい気配はない。

しかし毎夜毎夜

奇怪な鳴き声がする。


軍隊が離れた直後の

奇怪な事件


住民たちに動揺が走った。


そしてその頃から

「帝国は呪われているのでは?」

と噂が流れ始めた。


――――――――――――

進軍2日目の夜中

予定通り

各地に潜伏していた老兵たちにより

各部隊の太鼓すべてに穴があけられる。


老兵たちは斥候部隊や、途中で捕縛した兵士たちの

兵装を着て…

帝国軍になりすまし

なんなく全ての作業を実行した。


寄せ集めの大所帯であり

古参で知り合いばかりの軍隊ではない

同じ衣装を着ているものは疑わない

それが戦争の一面であった

――――――――――――

翌朝、号令の太鼓が打ち鳴らされる。


だが、音が…濁っていた。


「おい、これはどういうことだ!?」

「…皮が、裂けてやがる」


兵士たちは顔を見合わせた。

だれがこんな真似を――?


疑念と混乱が静かに帝国軍を蝕んでいく。


---------

その頃…

最後尾の騎馬隊は

馬たちに休憩を取らせていた。

馬は連続で走らせると

もたない。

ときおり

食料や水を飲ませる必要がある。

この騎馬隊たちも、のんびりとした草原で

馬たちを休ませていた。

その数約600―――


兵士たちは

つかの間の休息を

楽しんでいた。


「戦が終わったら結婚しようと約束したんだ」

一人の兵士は言った。


その顔は誇らしげだった。



状況が急変したのは

ある馬のいななきによってだった。

さきほどまで草を食べていた馬たちが

一斉に走り出した。


なにかがおかしい。


隊長は

「馬をとめよ」

と全軍に命令をする。


しかし太鼓はすでに役にたたない。

隊長は大声を張り上げる。


気付かずに寝ているものすらいる。


兵たちは急ぎ

馬を追いかける。


だが――


軍装をつけたまま。

しかも興奮して走り出した馬に追いつけるはずがない。


またたくまに

600のうち300の馬の消息は不明になった。


1時間後

馬を引き戻しに野営地に戻った騎馬隊は

声を失った。


兵糧や革袋など重要な補給物資を入れたテントが

全て燃え尽きていたのだった。


馬を失い。そして兵糧まで失った。

その状況に

誰一人として、言葉を発する者はいなかった。

そこにあったのは、ただ焼け焦げた補給の山――

“呆然”と“絶望”の匂いだけだった。


―――――――――

その時…

軍師は一人王城で

孤独にこう思っていた。


馬を失えば、追撃力が失われる。

補給を失えば、耐久力が失われる。

――勝負は、戦う前につく。



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