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第12話:老兵たちの挽歌~勝者なき戦

開戦から3か月がたった。


帝国は内戦でどこもかしこも燃えていた。

その火の手は城や軍事拠点までに及んだ。


もはや。

以前の帝国の姿はなかった。


帝国に潜んでいた王国側の密偵は

すべて引き上げた。


商人たちも王国へ引き上げた。


彼らが王都に戻る途中

無数の干からびた帝国兵たちを見た。


密偵たちは王女と軍師に、帝国と王国内部の事を伝えた。


王女と軍師は目を見合わせる。


「勝ちましたね」

と王女は言った。


「いや…まだです。これからが少し大変です」

と軍師は言った。


そこから軍師は299名の老兵たちを再び集め

こう言った。


「いま帝国は瓦解寸前である。これから攻めてくることはあるまい。

しかし王国内は帝国民の亡骸で溢れている。

この中にはまだ生きているものもおるやもしれん。

そこでこれから帝国民を片付けにいく。

装備品は回収し売り払い全員でわける。

30人で一部隊となり、十部隊で列をなしながら

片付けていく。

遺体は火葬しろ。

骨は一か所に集めろ。

1人が33人片付ければ1万の兵は片付く」


一人の男が声をあげた

「あの―全員でわけるのは、うれしいのですが…

やはり軍師殿や将軍殿は分け前を多めに取ったほうがいいのでは」


これには同意の声も多かった。


軍師は言った。

「ではこうしよう。ここに饅頭が3つある。

これを私は多めの分け前としてもらおう」


それを聞き

将軍も

「では私も…。ここの酒3つを持ち帰ろう。

多めの分け前としてな」


これには皆が感動し

惜しみない拍手を送った。


将軍は軍師に耳打ちをする。

「これでよかったのか?」


軍師は将軍に問う。

「お前こそ、よかったのか」


将軍は目を細め

「うむ。お主と戦ができた。それが一番の褒美よ。

よく戻ってきたな」


と軍師の肩を叩いた。


軍師はふと少年のような顔をした。


遠くからその姿を見つめていた王女は

「軍師殿はあんなに無垢なお顔をなさるのですね」

とつぶやいた。


それから軍師は

戦争の最後の仕上げにかかったのであった。


後片付けにはまるまる1か月かかった。

1万人分の装備品はかなりの金額になった。

それを300人でわけあったものだから

老兵たち皆が潤った。

それにくわえ

王国からも褒美があった。


軍師は与えられた褒美を使い

帝国と王国の境に

巨大な穴をほり、

そこに帝国民の骨を納め

小さな廟をたてた。


遺骨は300人の老兵たちが運んだ。

帝国兵を追悼する―

挽歌を口ずさみながら…


軍師は思った。


もし一つの作戦でも

破綻していれば

挽歌をうたわれるのは

私達であったろう。


それが今は…


私もいつの日が孫子のように

名を残すような本が書けたなら…。


そしてその本がだれかの

身を守るために使われるのなら

こんなにうれしい事はない。



―――――――――――

その頃

帝都では一人皇帝が頭を抱えていた。


目をかけていた一部の貴族たちが

各地で反乱を起こしたのだ。


あれだけ強大だった帝国の権威は

この戦で一気に地に落ちた。



「なぜだ。なぜこうなった…

あれは羽虫ではなかったのか…」



帝国が相手にしていたのは、確かに羽虫だった。



しかし羽虫は羽虫でも

それは蜂のように危険な羽虫であったのだ。


かくして

1万の帝国軍は300の羽虫によって瓦解する。

そしてその瓦解は

帝国の瓦解を意味するのであった。


子息を余興で失った貴族たちに

以前のような勢いはなく

ただ朽ち果てていくのみだった。


街にも以前のような活気はなく

ただ閉塞感がただよっていた。


人を攻め冨を得続け、

栄華を得る。

その構造設計体の完成図がこの街にはあった。


そして静かに帝国は…。




END


※本作は完結しておりますが、反響やご好評をいただければ、続編やスピンオフも考えております。

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