第11話:兵たちの選択
帝国軍が侵攻してから5日がたった。
王都は戦争などまるで知らぬように活気で溢れていた。
帝国軍が侵攻したことは伏せられていたのだ。
これは軍師による指示であった。
実際に王都の中に攻め込んでくるまで
何も伝える必要はない
攻め込んできたら、その時にわかる。と…。
もとより始めに王女が帝国軍が攻め入ってくることは
伝えてある。
それ以上むやみに恐怖をあおる必要はない。
それが軍師の考えだった。
王女は多少
躊躇はしたが
いま王都がムダに混乱させるのは
悪手だと思い。軍師に同意した。
一方その頃
帝国は内戦の収束に苦心をしていた。
そして遂に帝国軍への帰還命令がなされる。
これには貴族たちは反発したが
皇帝の一声で決定する。
そしてようやくここで…
帝国軍1万が
王国に閉じ込められていることを知るのである。
帝国内では急ぎ。橋の修復にかかるが
人が集まらない。
多くの職人は、工兵として出陣していたからだ。
―――――――――
同じころ
飢えと疲労と疑念にまみれた帝国兵は
同士撃ちの連鎖にはまっていた。
同じ釜の飯を食う
その言葉が懐かしく感じるくらい
兵士たちは殺伐としていた。
多くのものがふらふらと立ち回り
食料を探す。
特に隊長クラスは執拗に狙われた。
食料を隠し持っていると噂が回ったせいだ。
数日前まで畏怖の対象であった存在が
今は自軍からの狩りの標的であった。
身分社会の中で、上位種として振る舞っていた彼らは
それまで見下していたものたちに
狩られる恐怖を味わっている。
帝国最強とうたわれた
かつての軍神は
「なにを間違った」「なにを間違った」「なにを間違った」
と暗闇でふさぎこんでいた。
農民上がりの軍師が
名もなき庶民が
命を賭して仕掛けた
罠に
帝国という巨大な生物は
飲みこまれていく。
遠くからその光景を見るひとりの僧は
「諸行無常」
とつぶやき。
その場を離れた。
――――――――――――
開戦から2か月後
帝国の宰相は
ようやく王国側の軍師の名をしる事になる。
報告をうけ
彼は笑いころげた。
そして恐怖で固まった顔で震えだした
「彼はここに来る。
彼は私を許しはしない。
逃げないと…」
そう叫び宰相は築き上げた全ての物を
放り出し国外へ逃亡する。
帝国外の中立国で宿を取り、
小さな家も買った。
「ここまでは追ってこないはず」
ようやく宰相は安心した。
ある祭りの晩…
彼がすこしほろ酔い気分で祭りで歩いていると
「もし**様でございますよね」
と一人の老婆に声をかけられる。
私の知り合いなぞ…
いないはず
「人違いです」
と振り返る。
「そうですか…
それは失礼しました」
そう言った老婆は立ち去った。
「なんだ…。気味が悪いな。今日はさっさと帰る事にしよう」
そういい。
その日は祭りを後にした。
翌朝
街のはずれの川辺で冷たくなった宰相がみつかった。
状況から酒によって川に落ちたのだろうと噂された。
実際
彼がなぜこうなったのかは誰も知らない。
ただ
昨晩宰相に声をかけた老婆は宰相の妻の乳母であったのだ。