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10/12

第10話:敗北の始まり

その頃王国に攻め入った帝国軍はまったく機能していなかった。


それにはいくつか理由がある。


一つ目は工兵の存在だ。

通常…戦には工兵という部隊がつく。

工兵とは罠・城攻め・防衛の専門家集団のことで

土木建築の技術者などで構成される。


工兵が機能しておれば、王国の計略により落とされた橋も復旧できるのだが…


帝国軍の工兵は

2日目の時点で

全員いなくなった。


軍師は工兵の位置を把握し

夜襲をかけさせたのだ。


そして工兵たちの持っていた道具類も全て焼却処分とした。


二つ目は輜重兵だ。

輜重兵とは補給・輸送を行う集団のことで、今回は約500人。

彼らが兵糧・矢・医療・衣服の運搬管理を行う。


軍というのは、各々がしっかり意識しないと、縦に長く伸びる。

先頭はスピードが速い騎馬隊、そして歩兵や弓兵、最後方は工兵や輜重兵となりやすい。

特に今回は騎馬隊が初陣のものが多いことから、いつもにまして縦に長く伸びた。


騎馬隊、歩兵、弓兵たちが持っている食料はせいぜい5日分である。


多くの食料は輜重兵が運ぶ。


今回軍が縦に伸びたことで、最後尾の工兵と輜重兵たちが落ちた橋と橋との間で、完全に孤立してしまったのだ。



そして帝国の輜重兵と補給物資は3日目の時点で

全員いなくなった。


これも軍師が夜襲をかけさせたのだ。

もちろん補給物資も全て焼却処分とした。


全ては順調にいったように見えたが…

実はこの焼却処分を巡ってはひと悶着あったのだ。

――――――――――――――

それは10日前の王城でのこと


将軍が軍師からの「補給物資焼き討ち」の指示を聞き

突然怒鳴りつける。


「補給物資は、どこかに隠せばいいではないか。なぜ燃やす」


「そうだ。もったいないし。あれば民の暮らしも上向く」と元料理人。


「たしかに…。敵国のものとはいえ、使えるのですし、再考なさっては」と議論を聞きつけた文官も参戦する。


各々が補給物資の焼き討ちに関しては、否定的であった。


しかし軍師は

ふっと一息つきこう語った。

「たしかに…。もったいない。それは認める。民の暮らしも上向くし、使える」


「それであれば」

将軍は勢いよく畳みかける。


「しかし。完全に燃やし尽くさないと、必ず帝国軍は息を吹き返す。飢えた獣はかならず食料のありかを見つけ出す。

もし兵糧を隠し、それが見つかり、奪われたらどうする?

我々にこの国は守れるか?

君には責任を取れるのか?

我々は少数。

奴らは大軍。

焼き討ちは逆にいえば、我々の勝ち筋でもあるのだ。

私は今は軍師だが、少し前までは農夫だ。

農産物への愛着は深い。それでもやらねば、赤子の喉元に剣を置くようなものなのだ」


この一言で

皆は黙り込んだ。


補給物資を燃やす班には。

軍師自らこの事を徹底させた。


そのかいもあり。

誰一人躊躇することなく

完全に燃やし尽くすことができたのだ。


―――――――――

補給物資に火がかけられた頃

軍師は王城から遠くに煙が上がるのを見て

一人

王城の片隅にある小さな祠にむかった。

豊穣を司る女神が祀られる祠であった。


軍師は祠の前に正座をし

ただ黙って身体を折り頭を垂れた。


1時間ほど…

ただそこに軍師はうずくまっていた。


農夫であり

神の恵みを感じるものであった

彼の…

その決断は

心を削るほどの

重いものであったのだ。



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