2.ハーレム要員には絶対ならない!
いよいよ私は高校入学。『俺バラ』の物語開始まで近付いてきた。確か入学して何日が経過してからが物語開始だったはず。ハーレム要員になんかならずに私の青春を謳歌してやる!
私は朧げな記憶を頼りに『俺バラ』の主人公、原田陽太のハーレムには絶対に入らないことを決意した。
いや、前世目当ての漫画のついでに流し読みしていただけだからね。完結までどんな展開だったのかも知らないし。
私は前世を改めて思い出しながら入学する薔薇咲高校に両親と一緒に向かった。
「姫花はもう高校生かあ……。この前までまだこんなに小さかったのに……」
父がしみじみと呟いた。父が示したサイズはまるで赤ん坊のサイズ。
いつのことを思い出しているのやら。
「あなた、何年前の話をしているの?」
母がクスッと笑った。
「ハハハ、確かにそうか。それにしても、僕達のお姫様は君に似て美人だから、変な虫が寄って来ないか心配だよ。姫花、高校で男子にちょっかいかけられたらお父さんに言うんだぞ。お父さんが撃退してやる」
「お父さん、私もう高校生だよ。自分で何とかするって」
私は少し照れながら口を尖らせた。
父は母に似た私を特に溺愛しているみたい。もちろん、弟二人も大切にしているけれど。
確かに、母は身内の贔屓目を除いても美人だ。ちなみに父は割と平凡な見た目。
父は大学時代、母に一目惚れしたらしい。そこから母と釣り合うように清潔感や服装、中身など変えられる部分を努力で変えていった。その努力が実って父は見事に美人で異性から人気がある母を射止めた。その後も母に愛を伝え続けたり、努力を惜しまなかったみたい。
そういえば、姫花としての記憶をたどると父は娘の行事はいつも休みを取って来てくれていた。もちろん、弟二人の学校行事も。ただ、私と弟達の行事が被った時は私を優先する父。やっぱり溺愛されているみたい。
両親からの愛を感じながら、私は薔薇咲高校に到着した。
◇◇◇◇
私のクラスは一年二組。
この辺も、『俺バラ』の初期展開の通り。
私は主人公の原田陽太や他のメインヒロイン達と同じクラス。
確かメインヒロインの中には二年の先輩が一人いた気がする。
そんなことを思い出しながら、私は一年二組の教室に向かい、自分の席を確認した。
教室には七割くらいの人が揃っていた。私は窓側の前から三番目の席だから、割と教室全体を見渡しやすい位置にいる。
あ……。
私はクラスメイトの一人に目が留まる。
原田陽太だ。
青みがかった黒髪、中肉中背、美形でもなく醜くもない見た目。いかにも平凡といった感じ。
やはりハーレム系ラブコメの読者は男性がメインで、平凡な男性でも夢が見られるように設定してある。
私は原田陽太から視線を離し、彼の後ろの席に目を向ける。
そこに座っているのは、ピンク色の髪を高めの位置でツインテールにした美少女。
彼女はメインヒロインで原田陽太と結ばれる勝ちヒロイン、春宮香恋。『俺バラ』での性格は明るく勝ち気で気が強かった気がする。
まさかとは思ったけれど、本当にピンク色の髪であることに私は驚いてしまう。染めているのか地毛なのかは分からないけれど。
それから私はもう一人のヒロインに視線を移す。
今度は毛先がカールしたような金髪碧眼の美少女、財前麗奈。家がお金持ちのお嬢様で世間知らず。少し高飛車な性格だけど優しさはあって、原田陽太に素直にアプローチしていた気がする。
明らかに日本人なのに金髪碧眼……。春宮香恋の髪色もそうだけど、みんな違和感を覚えないのかな?
私は不思議で仕方なかった。
春宮香恋と財前麗奈以外の生徒は日本人らしい黒髪だった。
ちなみに、残りのメインヒロインの名前は雪野碧。水色のショートカットでクールビューティな感じの先輩だったはず。確かヒロインの中で唯一眼鏡をかけていて、お色気要員だとか。
◇◇◇◇
入学式を無事に終えた翌日。
いよいよ高校生活が始まる。
新しい友達が出来るか、クラスにイケメン男子はいるかなど、私は色々とワクワクしていた。
せっかくの高校生活は思いっきり青春したいもん! それに、せっかく前世より可愛くなったんだし!
私は口角を上げ、一年二組の教室に向かう。
「おはよう、苺谷」
その時、背後から声をかけられた。
振り向くと思わず内心ウゲッとしてしまう。
原田陽太だ。
私の朧げな記憶によると、『俺バラ』では姫花と原田陽太は中学が同じらしい。
姫花としての中学の記憶もある。確かに彼と同じ中学で中学三年の時はクラスも同じだった。
「原田くん……おはよう……」
「あのさ、苺谷」
「原田くん、私今急いでるの。あなたと話している暇はないから。私の時間は貴重だし」
思わず前世で『俺バラ』の原田陽太が嫌いだったから、棘のある言い方になってしまった。
でも、このくらい許されるはず。原田陽太はどうせ漫画のキャラクター。それに、私は『俺バラ』みたいに原田陽太のハーレム要員には絶対になりたくないから。こんな奴に私の青春を捧げたくない。
「あ、ごめん……」
原田陽太は困惑していた。正直、ざまぁ見ろと思ってしまう。
私はそれを無視して教室に入る。
「おはよう、苺谷さんだよね?」
席に着くと、隣の席の女子生徒から声をかけられた。
ショートカットで活発そうな子だ。ショートカットで座っていてもスラリとした長身であることが分かる。
「うん、おはよう。えっと、桐山さんだっけ?」
「そうだよ。当たり。桐山詩穂。名前覚えてくれて嬉しいな」
桐山さんは嬉しそうにニコリと笑った。私もつられて笑みが漏れる。
「桐山さんも、私の名前覚えてくれたんだね。ありがとう」
「そりゃ覚えるよ。苺谷姫花ってめちゃくちゃ可愛い名前だし、実際本人は可愛くて美人だからさ」
嫌味のない素直な言葉だ。
「そう……かな? ……ありがとう、桐山さん」
姫花に転生して、可愛くなれて私も嬉しいけれど、桐山さんの真っ直ぐな言葉に少し照れてしまう。
「反応も可愛い。桐山さんじゃなくて、詩穂で良いよ。その代わり、苺谷さんのことも姫花って呼ばせて」
「うん。じゃあ、よろしくね、詩穂」
「よろしく、姫花」
こうして、私は詩穂と仲良くなった。高校での初めての友達ゲット。
詩穂は長身だからてっきり中学時代はバレー部かバスケ部かと思ったけれど、違った。詩穂は中学時代吹奏楽部でアルトサックス担当だったそうだ。少し親近感が湧く。
姫花としては中学時代帰宅部だったけれど、実は前世の私は中学高校どちらも吹奏楽部だった。
前世フルートを希望していたけれど、フルートは希望者が多くてジャンケンに負けてチューバに回された思い出がある。しかもフルート担当は可愛い子ばかりだった。
高校でと吹奏楽部に入部してフルートをやろうかなと思ったけれど、中学三年間チューバに身を捧げていたからチューバに愛着が湧いて、高校もチューバを選んだ。
「じゃあ詩穂は高校も吹奏楽部に入るんだ」
「うん。その予定。姫花は部活どうするの?」
「うーん……」
私は少し迷う。せっかくだし、後悔のないよう楽しみたい。おまけに少しだけフルートをやってみたいという気持ちが蘇る。
「吹奏楽部にしようかな」
「おお、じゃあ部活でも姫花と一緒にいられる」
詩穂は私の答えに嬉しそうだった。
こうして私は吹奏楽部に入部することにした。そして、見事にフルート担当になれた。
◇◇◇◇
数日が経ち、高校生活にも少し慣れてきた。
私が『俺バラ』の展開みたいに原田陽太のハーレムには入らず、詩穂と行動している。もちろん詩穂以外の女子とも話すようになって女子同士の繋がりも出来た。まだ四月だけど私の高校生活は既に順調だった。
「あれ? 姫花、今日部活休むの?」
「うん。ちょっと家の用事があってね」
放課後、詩穂に聞かれてそう誤魔化した。
せっかくの高校生活、部活以外のことも楽しみたいからこうして週に二日程度私は休んで遊んでいる(サボりとも言う)。このくらい許されるでしょう。
「そっか。じゃあまた明日ね」
「うん。詩穂、また明日」
私は詩穂に手を振り、彼女を見送った。
今日はSNSで話題になっているカフェにでも行ってみよう。
私はルンルン気分で学校を後にした。
読んでくださりありがとうございます!
少しでも「面白い!」「続きが読みたい!」と思った方は、是非ブックマークと高評価をしていただけたら嬉しいです!
皆様の応援が励みになります!