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ラウンド5:もし現代に生きていたら?〜SNS、炎上、キャンセルカルチャー〜

(質問コーナーが終わり、スタジオの雰囲気が少し落ち着く。あすかが中央に進み出て、名残惜しそうな、しかし期待に満ちた表情で語り始める)


あすか:「さあ、皆様、長きにわたる熱い議論、本当にありがとうございました。あっという間でしたが、いよいよ最後のラウンドとなりました。

これまでの議論では、皆様が生きた時代の『スキャンダル』、その背景にある権力、メディア、民衆心理、そしてプライバシーや制裁、時代の価値観といった、深遠なテーマについて語り合っていただきました。まさに、時空を超えた知的な格闘技でしたね!

そこで、最終ラウンドでは、少し想像力の翼を広げていただきたいと思います。テーマは…『もし、あなたがこの現代…21世紀の日本に生きていたら?』です!

想像してみてください。ここには『スマートフォン』という、手のひらサイズの魔法の板があります。(実際にスマートフォンを取り出して見せる)これで、世界中の人々と瞬時に繋がり、写真や動画を共有し、あらゆる情報を手に入れることができるのです。『インターネット』という巨大な網を通じてね。

そして、『SNS』…ソーシャル・ネットワーキング・サービスというものがあります。例えば『X(旧Twitter)』では短い文章を、『Instagram』では美しい写真を投稿して、世界中の人々に自分の考えや日常を発信できるのです。

でも…良いことばかりではありません。ネット上では、時に匿名の心無い言葉が飛び交い、特定の個人への非難が集中する『炎上』という現象が起こります。さらに、過去の発言や行動が掘り起こされ、社会的にその存在を抹殺しようとする『キャンセルカルチャー』と呼ばれる動きもあります。…皆さんの時代とは、また違った形の、しかし根は同じかもしれない社会の圧力があるのです。

さあ、こんな現代に、もし皆様が生きていたら…どう感じ、どう行動されるでしょうか?まずは、ヘンリー8世陛下、いかがでしょう?」


ヘンリー8世:(スマートフォンを訝しげに眺め、鼻を鳴らす)「ふん、魔法の板、だと?…どれ、見せてみよ。」(あすかから受け取り、無骨な手つきで触ってみる)「ほう…これで、余の威光を、瞬時に世界中に知らしめることができるというのか?それは便利であるな!余の肖像画や、狩りの成果、新しい法律などを次々と『とうこう』?とやらしてやろう!民草も、王の偉大さを常に目にすれば、余計な不満も抱くまい!

だが…待て。誰でも自由に発言できる?余を批判することも許される、だと?なんということだ!不敬千万!王への批判など、万死に値する!そのような書き込みは、即刻削除させよ!書き込んだ者は特定し、厳罰に処さねばならぬ!」(すぐに激昂し、スマホを叩きつけんばかりの勢い)


オスカー・ワイルド:(やれやれ、と肩をすくめ)「陛下、残念ながら現代では、たとえ王様であろうと、匿名の罵詈雑言…いわゆる『クソリプ』からは逃れられませんよ。それに、アカウントを停止させても、すぐに別のアカウントが現れる。イタチごっこですな。」


ヘンリー8世:「なんという無法地帯だ!では、その『炎上』とやらは?過去のことで『キャンセル』?馬鹿馬鹿しい!まるで中世の魔女狩りではないか!一度下した裁きを覆すなど、法の権威を地に貶める行為よ!断じて許せん!」


あすか:「(陛下、現代社会への適応は難しそうですね…)ありがとうございます。では次に、マリー・アントワネット様はいかがですか?このスマートフォン、お気に召しますか?」


マリー・アントワネット:(目を輝かせ、スマホを受け取る)「まあ、なんて美しいのでしょう!ガラスでできていて、指で触れると絵が変わるなんて…!これで写真を?わたくしのドレスや髪型、子供たちの笑顔を、遠い故郷の家族にも見せてあげられるのですね?『いんすたぐらむ』?素敵ですわ!

でも…匿名の…心無い言葉?炎上…?わたくしが何気なく投稿したお菓子の写真が、『また贅沢をしている!』と非難されたり…家族との幸せな時間の写真が、妬みの対象になったりするのでしょうか…?

怖い…また、わたくしが何かするたびに、悪意をもって解釈され、皆に憎まれてしまうのでは…そう思うと、何も発信できなくなってしまいそうですわ。キャンセルカルチャー?過去の失敗を、いつまでも責め続けられるなんて…ああ、なんて生きづらい世の中なのでしょう…。」(すっかり怯えてしまい、スマホをそっとあすかに返す)


オスカー・ワイルド:(マリーに同情的な視線を向け)「王妃様、お気持ちは分かります。ですが、恐れてばかりいては、何も始まらない。その『魔法の板』は、使い方次第で、あなたの真実の姿や、美しい感性を伝える武器にもなり得ます。もちろん、心無い声からは、賢く距離を置く必要がありますがね。」


あすか:「ありがとうございます。では、そのオスカー・ワイルドさん。あなたはこの現代社会、そしてSNSをどう使いこなしますか?」


オスカー・ワイルド:(スマホを優雅な手つきで扱いながら)「ふむ、これは実に興味深い玩具だ。現代の魔法の鏡…人々の虚栄心、承認欲求、そして底なしの好奇心が、この小さな画面の中に渦巻いているようだね。

SNS、特に『X』とやらは、私にとって格好の『言葉の遊び場』となりそうだ。『人生はあまりにも重要なので、深刻に考えるべきではない』…なんて警句を、140字で世界に発信し、人々の反応を眺めるのは、さぞ楽しいだろう。時に物議を醸し、『炎上』したとしても、それすらも観察対象として楽しんでしまえるかもしれない。『世間の注目を集めることより悪いのは、注目されないことだけだ』からね。

…だが、『キャンセルカルチャー』には賛同しかねるな。それは、多様な意見を封殺し、思考停止を招く、新しい形の清教徒主義ピューリタニズムに過ぎない。過去の過ちを糾弾する前に、現代の我々自身の偽善と向き合うべきではないかね?」(鋭い社会批評を展開する)


あすか:「なるほど…炎上すらも楽しむ、と。さすがワイルドさんですね。では最後に、ラスプーチン殿。あなたはこの現代の『魔法』を、どう使われますか?」


ラスプーチン:(それまで黙ってスマホを観察していたが、ゆっくりと顔を上げ、その目には異様な光が宿っている)「…これは…素晴らしい道具だ。

顔も見えぬ相手に、囁きかけるだけで、言葉は瞬時に世界を駆け巡る…。噂も、信仰も、希望も、そして…憎しみや恐怖も、意のままに広めることができる。匿名という仮面は、人々を大胆にし、無責任にする。これほど、人心を操るのに都合の良いものがあろうか?

『SNS』とやらで、悩める子羊たちに救いの言葉を与え、信者を集めるもよし。あるいは、政敵に関する根も葉もない噂を流し、社会的な信用を失墜させるもよし。『炎上』?ククク…それすらも計算ずくだ。注目を集め、人々の感情を揺さぶるための、強力な手段となり得るだろうよ。『キャンセルカルチャー』も、使い方次第では、邪魔者を排除するための有効な武器になるやもしれぬな…。」


ヘンリー8世:「(ラスプーチンを睨みつけ)やはり貴様は邪悪な男よ!そのような悪知恵ばかり働きおって!」


マリー・アントワネット:「(ラスプーチンを恐ろしげに見つめる)…恐ろしい…そんな風に使うなんて…。」


オスカー・ワイルド:「(やれやれ、といった表情で)…どうやら、技術が進歩しても、それを悪用しようとする人間のさがは変わらないらしいね。」


ラスプーチン:「道具に善悪はない。使う人間次第よ。ワシは、ただ時代の流れに乗り、与えられた道具を最大限に使うだけだ。」(悪びれる様子もなく言い放つ)


あすか:「ラスプーチンさん、ブレませんね…!王として権威を示そうとする方、怯えてしまう方、新たな表現の場を見出す方、そして人心掌握の道具として利用しようとする方…皆様の反応、実に様々で、興味深かったです!

スマートフォン、SNS、インターネット…これらは確かに、私たちの生活を便利にし、可能性を広げてくれました。しかし同時に、新たな形の『スキャンダル』や『社会的制裁』を生み出し、私たちに情報との向き合い方、他者との繋がり方について、重い問いを突きつけているのかもしれません。

時代は変われど、人間が抱える承認欲求や嫉妬、集団心理、そして真実を見極めることの難しさ…こうした課題は、普遍的なものなのかもしれませんね。

さて、名残惜しいですが、これで全てのラウンドが終了となります。皆様、長時間にわたる熱い議論、本当に、本当にありがとうございました!」


(最終ラウンド終了の、少し寂しげな、しかし達成感のあるジングルが流れる)

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