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ラウンド4:スキャンダルは罰せられるべきか?〜制裁と時代の価値観〜

(休憩室での和やかな雰囲気から一転、スタジオに戻った4人の表情には再び緊張感が漂う。照明はやや抑えられ、落ち着いた、しかし重みのある議論を予感させる雰囲気が醸し出されている。)


あすか:「さて、皆様、休憩で少しはリフレッシュできましたでしょうか?休憩室では、意外な組み合わせで会話が弾んでいたようですが…」(にこやかに言うが、すぐに表情を引き締める)


あすか:「ここからは、再び歴史の核心に迫ってまいりたいと思います。ラウンド3では、プライバシーと公共の利益という、非常に難しい境界線について議論しました。では、もしその境界線を越えてしまった、あるいは越えたと見なされた時…つまり『スキャンダル』が起きた後、当事者はどうなるのでしょうか?」


あすか:「スキャンダルを起こした(とされる)人物は、何らかの『罰』を受けるべきなのでしょうか?それとも…?ラウンド4のテーマは『スキャンダルは罰せられるべきか?〜制裁と時代の価値観〜』です。」


あすか:「このテーマについて、まずお話を伺いたいのは…オスカー・ワイルドさん。あなたは、まさに法と社会の両方から、厳しい『罰』を受けられました。」


オスカー・ワイルド:(静かに頷き、目を伏せる。先ほどの休憩中のリラックスした雰囲気は消え、深い苦悩と、それを乗り越えた者の静かな怒りが滲み出ている)「…罰、ですか。ええ、私は確かに罰せられました。レディング監獄での2年間の強制労働…それは、私の肉体だけでなく、魂をも打ち砕こうとするものでした。」


オスカー・ワイルド:「太陽の光も、美しい言葉も、愛する人々との交流も奪われ、ただ数字で呼ばれ、屈辱的な労働に明け暮れる日々…そして出獄した後も、待っていたのは破産宣告と、かつての友人たちからの冷たい視線、社会からの完全な追放でした。私は全てを失った…名声も、財産も、家族との絆さえも。」(淡々と語るが、その言葉には重い実感が込められている)


オスカー・ワイルド:「そして、その『罰』の理由は、何だったのか?…私が、当時の社会が許容しない愛の形を選んだこと。ただ、それだけです。それは、果たして『罪』だったのでしょうか?誰かを傷つけたわけでも、国を裏切ったわけでもない。ただ、美を、そして愛を、私自身の流儀で追求しただけなのです。時代の偏見と、権力者の憎悪によって作られた『罪』のために、これほどの罰を受けねばならなかった…これが、果たして正義と言えるのでしょうか?」(問いかけるように、他のゲストとあすかを見据える)


ヘンリー8世:(ワイルドの言葉に、苛立ちを隠せない様子で口を挟む)「甘ったれるな、ワイルド!法を犯せば罰せられるのは、世の当然の理であろうが!貴様は、当時のイングランドの法を破ったのだ!それ相応の罰を受けるのは当然ではないか!」


ヘンリー8世:「余とて、国家の法を執行する立場として、時には厳しい判断を下さねばならなかった!余が下した処罰…例えば、妻たちの処刑も、決して私情からではない!姦通や反逆といった国家への罪に対する、法の厳正なる適用なのだ!王として、国家の秩序と安寧を守るためには、時に非情な決断も必要となる!情状酌量など、法の尊厳の前には無用である!」


オスカー・ワイルド:「(冷ややかに)法の尊厳、ですか。陛下、あなたの言う『法』とは、結局のところ、あなた自身の意思そのものではなかったのですか?あなたの都合の良いように解釈され、あなたの意に沿わぬ者を排除するための道具ではなかったのですか?」


ヘンリー8世:「黙れ!王の決定こそが、イングランドの法なのだ!それに異を唱えること自体が、反逆なのだぞ!」


オスカー・ワイルド:「ならば、あなたは法の上に立つ暴君だ!あなたが下した『罰』は、正義の執行などではなく、愛したはずの人間に対する、冷酷な裏切りではなかったのですか!?」


ヘンリー8世:「き、貴様こそ…!そのような倒錯した『愛』は、神への冒涜であり、社会の秩序を破壊する『罪』そのものではないか!貴様が受けた罰は、当然の報いなのだ!」(激しい怒りで顔が歪む)


あすか:「またしても激しい応酬…!お二人とも、少し落ち着いてください!…しかし、『罰』の正当性、そしてそれを誰が判断するのか…非常に難しい問題ですね。」


あすか:「マリー様。あなたもまた、厳しい『罰』を受けられました。革命裁判という法の名の下に、そして何より、民衆の憎悪という社会的な力によって…。」


マリー・アントワネット:(ハンカチを握りしめ、震える声で語り始める)「…はい。わたくしが受けた裁判は…あれは、法の名を借りた、憎しみに満ちた見世物でございました。最初から結論は決まっており、わたくしの言葉など、誰一人として真剣に聞いてはくれませんでした。」(当時の屈辱と恐怖を思い出し、涙が滲む)


マリー・アントワネット:「そして…法廷の外では、群衆がわたくしを罵り、石を投げつけました。かつては歓呼の声で迎えてくれた同じ民が、です。彼らの目には、もはや真実など映ってはいませんでした。ただ、作り上げられた『悪女マリー・アントワネット』という虚像への憎しみだけが燃え盛っていたのです。」


マリー・アントワネット:「法による罰も恐ろしいものでした。しかし、それ以上に…あの、民衆全体の憎悪という、目に見えない力によって『断罪』されることの恐ろしさ…それは、経験した者でなければ分からないかもしれません。民意というものは、時に真実を歪め、人を容易く死へと追いやるのです…。」(力なく首を振り、深い悲しみに沈む)


オスカー・ワイルド:(マリーに深く同情する表情で)「…王妃様。法の名の下に行われる暴力ほど、残酷なものはありません。特に、それが民衆の熱狂によって後押しされている場合は…。」


ヘンリー8世:(少し顔をしかめて)「ふん…民衆などに裁かれるとは、王族にあるまじき失態よ!だが…その最期は、確かに哀れではあったな。」(複雑な表情を見せる)


あすか:「法による裁き、そして社会による裁き…ラスプーチンさん、あなたは、そのどちらでもない形で『罰』を受けられた、と言えるかもしれません。暗殺という、非合法な形で。」


ラスプーチン:(目を細め、どこか遠くを見るような表情で)「…罰、か。そうだな、ワシは法廷に引きずり出されることもなく、民衆に石を投げつけられることもなかった。だが、ワシを憎む者たちは、夜の闇に紛れて牙を剥いた。」


ラスプーチン:「彼らは、ワシを『法では裁けぬ悪』と見なしたのだろう。あるいは、自分たちの陰謀が露見することを恐れたのかもしれぬ。いずれにせよ、彼らは自らの手を汚して、ワシという『邪魔者』を排除した。そしておそらくは、それを『国家のための正義』だと信じて疑わなかっただろうよ。」(嘲るような笑みを浮かべる)


ラスプーチン:「だが、ワシを殺したところで、時代の流れは止められなかった。結局、彼らの『正義』もまた、虚しいものであったわけだ。フフ…力を持つ者の末路など、いつの世もそんなものかもしれぬな。」(達観したように語る)


ヘンリー8世:「悪党には相応しい末路だ!国を惑わす妖僧め!」(吐き捨てるように言う)


オスカー・ワイルド:「法に基づかない裁きは、決して許されるべきではない。それは、更なる暴力と憎しみを生む連鎖の始まりに過ぎないのだから。」(静かに、しかし断固として言う)


マリー・アントワネット:(ラスプーチンの最期を思い浮かべ、身震いする)「……恐ろしいことですわ。」


あすか:「法的制裁、社会的制裁、そして私的な制裁…様々な形の『罰』を見てきました。しかし、ここで考えなければならないのは、『時代の価値観』という問題です。」


あすか:「例えば、ワイルドさんが『罪』とされた愛の形は、現代の多くの国では個人の自由として認められています。一方で、ヘンリー8世陛下のような絶対的な権力や、苛烈な処罰は、現代の感覚からすれば到底受け入れられません。マリー様への憎悪も、当時の社会状況やプロパガンダの影響が大きかったと言われています。ラスプーチンさんの存在も、混乱した時代が生んだ徒花だったのかもしれません。」


あすか:「このように、時代の価値観によって『罪』も『罰』も、その意味合いが大きく変わってきます。この点について、皆様はどうお考えになりますか?現代の価値観で、過去の出来事を断罪することは、果たして許されるのでしょうか?」


オスカー・ワイルド:「(苦い笑みを浮かべ)…もし私の生きた時代が今であったなら、私は牢獄ではなく、ノーベル文学賞を受け取っていたかもしれないね。だが、現実は違う。私が受けた苦しみ、失った時間は、決して戻らない。時代の価値観が変わったからといって、過去の不正義が消えるわけではないのだよ。ならば、私の受けたあの『罰』は、一体何だったというのか…?」(深い問いを投げかける)


ヘンリー8世:「時代の違いなど、余の知ったことではない!余は、余の時代の法と、王としての信念に従って行動したまで!後世の者どもが、その浅はかな物差しで余の治世を批判しようとも、痛くも痒くもないわ!余の偉業は、歴史が証明しておる!」


マリー・アントワネット:「(悲しげに首を振り)未来の世で、わたくしたちのことがどのように評価されようとも…革命の最中に流された血や涙、失われた命が戻ることはございません。当時の苦しみ、悲しみは、決して消えることはないのです…。」


ラスプーチン:(静かに目を閉じている)「…フン。いつの世も、人はその時代の物差しでしか物事を測れぬものよ。未来の人間が我らをどう評価しようが、それは彼らの勝手だ。我らは、我らが生きた時代の中で、ただ精一杯生きた…それだけのことよ。」(達観したように、静かに語る)


あすか:「時代の価値観という、絶対的ではない基準の上で、私たちは『罰』の正当性を問わなければならない…。そして、そもそも、『誰』が、『誰』を罰する権利を持つのでしょうか?神なのか、法なのか、国家なのか、それとも民衆の声なのか…?」


ヘンリー8世:「神から王権を授かった、この余である!」


オスカー・ワイルド:「いや、法の下の平等こそが原則であるべきだ!しかし、その法が偏見に満ちているならば…?」


マリー・アントワネット:「民意は…時に残酷な怪物にもなりえますわ。」


ラスプーチン:「罰する権利など、結局は『力』を持つ者が握るものよ。」


あすか:「罰する権利…そして、罰の目的とは何なのでしょうか?罪を償わせること?更生を促すこと?社会の秩序を守ること?それとも、単なる見せしめなのでしょうか…?」


(再び議論が白熱しかける。それぞれの経験に基づいた「罰」への考え方が交錯し、答えの出ない問いがスタジオを満たす。)


あすか:「罰の正当性、そしてそれを左右する時代の価値観…これもまた、非常に重く、そして簡単に答えの出ない問いですね。スキャンダルと、それに伴う制裁について、深く考えさせられます。」


あすか:「さて、ここまで様々な角度から『スキャンダル』について議論してまいりました。ここで少し趣向を変えまして、皆様に直接、疑問をぶつける『質問コーナー』に移りたいと思います!」

(ラウンド4終了のジングルが、重い議論の空気を断ち切るように鳴り響く)

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 マキャベリやニーチェがこの場にいれば彼らを鼻で哂っていたでしょうね。  マキャベリは中途半端な権力を振り翳すから甘く見られると言い、ニーチェは弱きことが罪であると言いそうです。  要は相手がそんなこ…
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