ラウンド3:激論!プライバシーvs公共の利益〜線引きはどこにある?〜
(ラウンド2の議論の興奮が冷めやらぬ中、スタジオの照明が少しドラマティックに変化する。緊張感を煽るような、控えめなBGMが流れ始める)
あすか:「いやはや…ラウンド2では、『誰がスキャンダルを作り出すのか』というテーマで、権力、メディア、そして民衆の心理といった側面が見えてきました。しかし、その根底には、もっと根本的な問いがあるように思います。」
(少し間を置き、真剣な眼差しでゲストたちを見渡す)
あすか:「つまり、『個人の領域はどこまで守られ、どこからが公の領域となるのか』。特に、皆様のように歴史に名を残すような『公人』と呼ばれる方々にとって、この線引きは非常に難しく、そして切実な問題だったのではないでしょうか?」
あすか:「現代でも、有名人の私生活が根掘り葉掘り報道されたり、SNSでの発言が逐一チェックされたり…プライバシーと公共の利益、あるいは国民の『知る権利』との境界線は、常に議論の的です。さあ、この永遠のテーマについて、皆様のご意見を伺いたいと思います!ラウンド3、『プライバシーvs公共の利益』、スタートです!」
あすか:「まずは…この問題に最も鋭敏でいらっしゃるかもしれません。オスカー・ワイルドさん、いかがでしょうか?」
オスカー・ワイルド:(ゆっくりと立ち上がり、スタジオを見渡すように、しかしその視線はどこか遠くを見ているように)「…プライバシー。それは、人間の魂が裸でいられる、最後の聖域だ。誰にも穢されず、干渉されず、自分自身でいられる場所…それを、社会や、好奇心という名の野次馬根性が、土足で踏み荒らす権利など、断じてあってはならない!」(静かだが、強い怒りを込めた声)
オスカー・ワイルド:「私が何を愛し、誰と交わり、どんな言葉を交わそうと、それは私の問題であり、私の魂の問題だ。それを『公衆の面前』に引きずり出し、『道徳』という名の石を投げつける…これほど野蛮で、醜悪な行為があるだろうか!?『公人』だから?馬鹿馬鹿しい!公人である前に、我々は一人の人間なのだ!」(感情が高ぶり、声が大きくなる)
オスカー・ワイルド:「ゴシップを貪り食う大衆も、それを煽り立てるメディアも同罪だ!彼らは、他人の不幸や秘密を覗き見ることでしか、自らの退屈な人生を慰められないのだ!」(吐き捨てるように言う)
ヘンリー8世:(ワイルドの言葉を遮るように、席を叩きつける!)「黙れ、罪人めが!貴様の言う『プライバシー』など、国家の安寧の前には塵芥に等しいわ!」(怒りに顔を赤くしている)
ヘンリー8世:「王とは、国家そのものなのだ!余の結婚が、世継ぎが、信仰が、どうして私事であり得ようか!?それらは全て、イングランドの民と、その未来に関わる重大事!民が王を知り、王が民に示すこと、これこそが統治の基本である!それを『覗き見』だの『野蛮』だの…王の責務を理解できぬ愚か者の戯言よ!」(絶対君主としての威厳を示そうと、声を張り上げる)
オスカー・ワイルド:「(冷笑を浮かべ)ほう、責務、ですか。では、アン・ブーリンやキャサリン・ハワードを処刑台に送ったことも、陛下にとっては公務の一環だったと?愛憎や嫉妬といった、極めて個人的な感情ではなかったと、言い切れますかな?」(鋭い皮肉を込めて問い返す)
ヘンリー8世:「なっ…!き、貴様…!余の判断は、常に国家の利益に基づいている!姦通は国家への裏切りであり、許されざる罪だ!王妃の不貞は、王家の権威を揺るがし、国の秩序を乱す!それを罰するのは、王としての当然の義務である!」(激しく反論するが、少し動揺が見える)
オスカー・ワイルド:「都合の良い言い訳だ!あなたは、自らの欲望と権力を正当化するために、『国家』や『神』を利用したに過ぎない!それこそが、権力者の最も唾棄すべき傲慢さだ!」
ヘンリー8世:「黙れと言っている!この場で首を刎ねてやろうか!」(本気で怒り、剣の柄に手をかけかける仕草)
あすか:「わわわっ!陛下、落ち着いて!ここは言論の場ですから!お二人とも、ヒートアップしすぎです!少し冷静になりましょう!」(慌てて割って入る)
あすか:「…しかし、お二人の主張は、まさに対極ですね。『個人の魂の絶対性』と『国家の絶対性』…。マリー様、このお二人の激しい議論を聞かれて、どう思われますか?王妃というお立場は、まさにその間で揺れ動かれたのではないでしょうか?」
(ヘンリー8世とワイルドの剣幕に少し怯えた様子だったが、あすかに促され、意を決したように話し始める)
マリー・アントワネット:「…お二人の仰ることは、どちらも…ある意味で理解できます。わたくしは、生まれた時から『公人』としての運命を背負っておりました。結婚も、日々の生活も、全てが政治であり、国民の目に晒されるものでした。」
マリー・アントワネット:「ですが…(声を震わせ)それでも、心の奥底では、一人の女性として、母として、静かに暮らしたいと願う瞬間が…確かにありました。プチ・トリアノンで子供たちと過ごす時間、信頼できる友人と語らう時間…それは、わたくしにとって、息をつくための、本当にささやかな『プライベート』だったのです。」
マリー・アントワネット:「それすらも…悪意ある噂や、好奇の目に晒され、攻撃の材料にされました。『王妃が国民の税金で贅沢三昧している』『怪しげな者たちと密会している』と…。わたくしは、ただ少しだけ、普通の人間のように扱ってほしかった…それだけなのです。」(涙ぐみ、ハンカチで目元を押さえる)
オスカー・ワイルド:(マリーに同情的な視線を向ける)「…王妃様のお気持ち、痛いほど分かります。高貴な方ほど、その孤独は深いのかもしれない。」
ヘンリー8世:(少しバツが悪そうに顔をそむける)「…王族の務めは、時に過酷だ。それは認めよう。」
ラスプーチン:(それまで黙って観察していたが、ここで不気味な笑い声を漏らす)「ククク…弱いな、王妃様。そして、お二人も。プライバシーだの、聖域だの…そんなものに拘るから苦しむのだ。」
ラスプーチン:「隠すから、人は暴きたくなる。秘密にするから、噂が生まれる。いっそ、全てをさらけ出してみるがいい。何が本当で、何が嘘か…人々は混乱し、かえって真実を見失うだろうよ。」(挑発するように言う)
ラスプーチン:「ワシを見ろ。怪僧だの、女たらしだの、好き放題言わせておけばよい。その『スキャンダル』こそが、ワシに力を与え、人を惹きつけ、あるいは畏怖させるのだ。公も私もない。重要なのは、お前たちがワシをどう見るか、どう見せたいか…それだけのことよ。」(達観したような、あるいは全てを嘲笑うような口調)
マリー・アントワネット:「(信じられない、といった表情で)…そんな!人の心を弄ぶようなことを…!」
オスカー・ワイルド:「あなたは、プライバシーの侵害を嘆くのではなく、それを逆手に取って利用した、というわけか。…ある意味、究極のペテン師、あるいは処世術なのかもしれないが、私には到底受け入れられない考え方だ。」
ヘンリー8世:「やはり貴様は邪悪な男よ!人の心の弱みに付け込み、国を惑わす…!」
あすか:「うーん、ラスプーチンさんの意見はまた異質ですね…
しかし、ラスプーチンさんのように開き直れる方ばかりではありません。現代では、例えばパパラッチと呼ばれる人々が、有名人の私生活を執拗に追い回し、その写真が高値で売買されたりします。また、インターネット上では、匿名の誰かが、個人の秘密や誹謗中傷を簡単に広めることができてしまう…皆さんの時代とは違う形の『覗き見』ですが、これについてはどう思われますか?」
オスカー・ワイルド:「(深くため息をつく)技術は進歩しても、人間の本質…特に、他人の不幸や秘密を覗き見たいという卑しい欲望は、少しも変わっていないようだね。むしろ、匿名性という卑怯な仮面に隠れて、より悪質になっているのかもしれない。」
ヘンリー8世:「なんだその『ぱぱらっち』とやらは!?王侯貴族の私生活を嗅ぎまわる不埒な輩か!余の時代であれば、即刻捕らえて地下牢送り、いや、見せしめに処刑してくれるわ!」(憤慨し、テーブルを叩く)
マリー・アントワネット:(青ざめた顔で)「インターネット…匿名の悪意…それは、わたくしが経験したパンフレットや風刺画よりも、もっと恐ろしい世界なのでは…?考えただけでも、身がすくみますわ…。」
ラスプーチン:(目を輝かせ、面白そうに)「ほう…インターネットとな?それは便利な道具だ。顔も見えぬ相手に、囁きかけるだけで、噂は瞬く間に広がる…。ククク、使い方によっては、国一つ動かせるかもしれぬな…。」(邪悪な笑みを浮かべる)
あすか:「まぁ、使い方は様々ですが…
このように、プライバシーの問題は、時代を超えて形を変えながら、私たちを悩ませ続けています。果たして、『公人』のプライバシーはどこまで守られるべきなのか?国民の『知る権利』や『表現の自由』はどこまで優先されるのか?そして、その境界線を、一体誰が決めるというのでしょうか…?」(視聴者にも問いかけるように、スタジオを見渡す)
オスカー・ワイルド:「境界線など、引くこと自体がおこがましい!個人の尊厳は、何よりも優先されるべき絶対的な権利だ!」
ヘンリー8世:「国家の利益こそが絶対である!王はそのために存在する!個人の感情など二の次よ!」
マリー・アントワネット:「どうか…そっとしておいてほしいと願う、小さな声にも耳を傾けていただけませんか…?」
ラスプーチン:「境界線など、初めからないのだ。あるのは、見たいものを見る人間の欲だけよ…。」
(四者四様の主張が再びぶつかり合い、スタジオのボルテージは最高潮に達する。激しい言葉の応酬、互いを睨みつける視線。照明が明滅し、緊迫したBGMが流れる中、議論は平行線を辿る)
あすか:「おおっと、まさに歴史を揺るがす大激論!皆様、ありがとうございました!プライバシーと公共の利益…この問題、あまりにも根深く、そして複雑で、今宵だけで結論を出すのは到底不可能のようです!」
あすか:「しかし、皆様の魂からの叫びは、現代を生きる私たちにとっても、非常に重い問いを投げかけているのではないでしょうか。…さて、白熱した議論で、皆様もお疲れでしょう。ここで一度、幕間を挟んでクールダウンといきましょうか。特別な休憩室にご案内いたします!」
(激論の余韻が残る中、あすかが笑顔で休憩を促す。緊張した空気が少し和らぎ、幕間へと移行する)