ラウンド1:我がスキャンダル、その「真実」と「言い分」
あすか:「さあ、ここからは本題に入ってまいりましょう!
ラウンド1のテーマは『我がスキャンダル、その「真実」と「言い分」』です!まず口火を切っていただくのは…オープニングでも大変威勢の良かったこの方、ヘンリー8世陛下、お願いできますでしょうか?」(マイクを向ける仕草をする)
ヘンリー8世:(顎を上げ、威厳たっぷりにスタジオを見回してから、重々しく口を開く)「よかろう。案内人よ、よく聞くがよい。世の俗物どもが『スキャンダル』と囃し立てる、余の結婚と、かの『宗教改革』について、真実を語ってやろう。」
ヘンリー8世:「第一に、これは国家の根幹に関わる問題であった。テューダー朝の安泰のため、何としても男子の世継ぎが必要であったのだ。最初の妻、キャサリン(・オブ・アラゴン)は誠実な女性であったが、神は我らに健やかなる王子をお与えにならなかった…これは、兄の妻であった彼女との結婚が、そもそも神の法に背いていた証左に他ならぬ!」(自身の正当性を確信する強い口調…)
あすか:「なるほど、まずは世継ぎ問題と、信仰上の理由があった、と。」
ヘンリー8世:「うむ。そして、ローマの教皇よ!あの強欲で俗世にまみれた法王どもが、余の敬虔なる願いを聞き入れようとしなかったのだ。イングランドの王が、自国の教会の首長として立つことは、神の御心であり、この国の独立と繁栄に不可欠な決断であった!これを『スキャンダル』と呼ぶ者は、神と王への反逆者である!」(拳を握り、語気を強める)
オスカー・ワイルド:(やれやれ、といった表情で小さくため息をつく)「陛下、失礼ながら…その『神の御心』は、若く美しいアン・ブーリンへのご執心と、少々混同されてはいらっしゃいませんでしたか?愛のために法や慣習を打ち破るのは、ある意味ロマンチックではありますが…。」(皮肉な笑みを浮かべる)
ヘンリー8世:(ワイルドを睨みつける)「黙らぬか、道化者め!アンへの愛が、余の決断を後押ししたことは認めよう。彼女は聡明で、魅力的な女性であった。だが、それも全てはイングランドの未来のため!結果として、余はエリザベスという偉大な女王を授かったのだぞ!」(胸を張る)
マリー・アントワネット:(少し伏し目がちに)「王として、国の未来を想うお気持ちは…お察しいたします。世継ぎの問題は、王家にとって常に重い課題でございますから…。」(自身の経験と重ね合わせるように呟く)
ラスプーチン:(目を細め、ヘンリー8世をじっと見つめる)「フフ…権力とは、自らの望みを『神の意志』や『国家の利益』という衣で飾り立てることでもある…。見事な手腕だ、陛下。」(感心したのか、嘲笑しているのか、判別し難い口調)
ヘンリー8世:(ラスプーチンの言葉に一瞬眉をひそめるが、すぐに尊大な態度に戻る)「祈祷僧ごときに、王の深慮が分かるとは思えぬわ。」
あすか:「しかし陛下、そのアン・ブーリンも、後に姦通罪などの容疑で処刑されていますよね?あれほど愛したはずの女性を、ご自身の命令で…それもまた『国家のため』だったのでしょうか?」
ヘンリー8世:(一瞬、表情が翳るが、すぐに厳しい顔つきになる)「…アンは…余を裏切ったのだ。王妃にあるまじき罪を犯した。王たるもの、私情に流され、国家の秩序を乱すわけにはいかぬ。…断腸の思いであったが、それもまた、王の務めよ。」(苦々しげに言い放つ)
あすか:「…ありがとうございます、陛下。では次に、マリー・アントワネット様、お話しいただけますでしょうか。浪費や、フェルセン伯爵との関係など、様々な噂が流れましたが…。」
マリー・アントワネット:「はい…。(深呼吸し、静かな声で)まず、わたくしが『浪費家』と呼ばれたことについて…オーストリアから嫁いだ当初、フランス宮廷の華やかさと、その裏にある窮屈な儀礼に戸惑い、若さゆえにファッションや装飾に心を慰めを見出していたことは、認めますわ。」(少し恥じらうように)
マリー・アントワネット:「ですが、『赤字夫人』とまで呼ばれるほどの国家財政の逼迫は、わたくし一人の責任ではございません。先代からの負債、度重なる戦争…様々な要因がございました。プチ・トリアノンでの生活も、堅苦しい宮廷を離れ、子供たちと心安らぐ時間を過ごしたかった…ただそれだけなのです。それが国民の皆様の目には、贅沢で閉鎖的なものと映ってしまったのかもしれません…。」(悲しげに目を伏せる)
ヘンリー8世:「ふん、女子供の遊びに国費を使うとはな…。まあ、王妃の慰めも時には必要か。」(少し同情的な色を見せる)
オスカー・ワイルド:「お美しい方が、美しいものを愛でるのは自然なことでしょう。ただ、その美しさが、貧しい人々の目には毒と映ることもある…悲しい現実ですが。」
あすか:「フェルセン伯爵とのご関係については、いかがでしょうか?革命時、国王一家の逃亡を手助けされた方でもありますが…。」
マリー・アントワネット:(少し頬を染める)「…フェルセン伯爵は、異国の地で孤独だったわたくしにとって、得難い友人であり、理解者でした。彼の誠実さと勇気には、深く感謝しております。それ以上の関係を疑う声があることは存じておりますが…わたくしはフランス王妃としての誇りを、決して忘れてはおりませんでした。」(毅然とした表情で言い切る)
あすか:「そして、あの有名な『首飾り事件』ですが…。」
マリー・アントワネット:(語気を強める)「あれは、全くの濡れ衣でございます!わたくしは、あの高価な首飾りを欲したことなど一度もございません。詐欺師たちの陰謀に、わたくしの名前が悪用されただけなのです!それなのに、多くの人々はわたくしが関与したと信じ込み…あの事件が、わたくしへの憎しみを決定的にしたように思います。」(悔しさを滲ませる)
ラスプーチン:(低い声で)「憎しみという炎はな、一度燃え上がると、真実など灰にしてしまうものだ。小さな火種が、やがて国をも焼き尽くす…。」(マリーの目を見て、意味深に語る)
マリー・アントワネット:(ラスプーチンから目を逸らす)「……。」
あすか:「ちなみに、マリー様。『パンがなければお菓子を…』という発言、これは…?」
マリー・アントワネット:(きっぱりと)「そのようなこと、断じて申し上げておりません!それは、わたくしを貶めるために作られた、悪意ある作り話でございます!」
あすか:「ありがとうございます。では続いて、オスカー・ワイルドさん。あなたを破滅へと導いたスキャンダル…当時の社会では『犯罪』とされた同性愛について、お話しいただけますか。」
オスカー・ワイルド:「(ふっと息をつき、少し遠い目をしながら)…犯罪、ね。そう、ヴィクトリア朝の偽善的な社会では、愛の形を、美の形を、狭い道徳観で縛り付けようとした。私が愛したのは、若く美しい魂であり、肉体だった。そこに性別など、些末な問題に過ぎなかったのだがね。」
オスカー・ワイルド:「私は芸術家として、人生そのものを芸術作品として生きたかった。美を追求し、それを表現することが私の使命だった。社会の規範に盲従し、自らの感性を偽ることなど、私にはできなかったのだよ。」(静かだが、強い信念を感じさせる口調)
ヘンリー8世:(露骨に顔をしかめる)「なっ…!男が男を愛するなど、神の教えに背く、唾棄すべき行為ではないか!それを『美』だなどと…言語道断である!」
オスカー・ワイルド:(ヘンリー8世に冷ややかな視線を送る)「陛下、あなたこそ『神の教え』を随分とご都合よく解釈なさったではありませんか。愛の形は、人の数だけある。それを裁く権利が、一体誰にあるというのですか?」
ヘンリー8世:「ぐっ…!この…!」(言葉に詰まる)
マリー・アントワネット:「…芸術家の方の感性は、常人には計り知れないものがあるのかもしれません。ですが、ワイルド様…法を破り、公然と社会に挑戦なさったことが、悲劇を招いたとはお考えになりませんか?」(心配そうに問いかける)
オスカー・ワイルド:「(マリーに穏やかな笑みを向ける)王妃様、ご心配感謝します。確かに、もう少し賢く立ち回るべきだったのかもしれない。だが、あの時、私はクイーンズベリー侯爵という野蛮な男から、私の名誉と、そして愛する人…あのアルフレッド・ダグラスを守るために、戦う道を選んだ。結果は…ご覧の通りだがね。」(自嘲気味に笑う)
ラスプーチン:(ワイルドをじっと見つめながら)「…異端者は、いつの世も迫害される運命なのかもしれぬな。だが、その魂の炎は、牢獄の壁をも焼き尽くすことがある…。」(何かを見通すような目で呟く)
あすか:「その裁判で、当初は強気な姿勢を貫かれたとか…後悔はありませんか?」
オスカー・ワイルド:「後悔?いや、後悔はない。むしろ、あの偽善的な社会の仮面を剥ぎ取ってやろうとしたことに、ある種の誇りすら感じているよ。たとえその代償が、私の全てを奪ったとしてもね。『深淵』から見上げた星の光は、格別に美しかった…。」(寂しげだが、どこか誇らしげに語る)
あすか:「強い言葉、ありがとうございます。それでは最後に、ラスプーチン殿。あなたに纏わるスキャンダル…皇帝一家への影響力、怪しげな噂の数々について、お聞かせいただけますか?」
ラスプーチン:(ゆっくりと口を開く。その声は低く、不思議な響きを持っている)「…ワシは、ただ神に仕える貧しい農夫よ。だが、神はワシに特別な力をお与えになった。血の止まらぬ皇太子アレクセイ様の苦しみを和らげることができたのは、奇跡であり、神の御業だ。」(目を閉じ、祈るような仕草をする)
ラスプーチン:「皇后陛下は、母として、その奇跡に縋られた。ワシは、ただ神の道具として、皇室の安寧を祈り、助言を求められれば答えたまでのこと。国政を操ったなどという噂は、ワシを妬む者、皇帝陛下を陥れようとする者たちの、根も葉もない悪口よ。」(ゆっくりと目を開け、鋭い視線を向ける)
ヘンリー8世:「(吐き捨てるように)怪僧めが!皇室に取り入って国を壟断しようなど、万死に値するわ!」
ラスプーチン:(ヘンリー8世を意に介さず)「女どもとの噂?フン、ワシを慕う者は多かった。男も女も、貴族も平民もな。力が人を惹きつけるのは自然の摂理よ。酒?ああ、飲んだとも。神の恵みだからな。だが、それで道を踏み外したことは一度もない。」(悪びれる様子もなく、平然と言ってのける)
マリー・アントワネット:(不安げに)「…皇太子様を思う皇后陛下のお気持ちは、母として痛いほど分かります。ですが、その…あまりに大きな影響力は、宮廷内に混乱を招いたのではないでしょうか…?」
ラスプーチン:「混乱?それは、ワシがおるからではない。ワシがおらねばならぬほど、国が、宮廷が病んでおったからだ。ワシは、その膿を吸い出すための存在だったのかもしれぬな。」(不気味な笑みを浮かべる)
オスカー・ワイルド:「(興味深そうに)ペテン師か、聖者か、あるいはその両方か…実に興味深い。あなたは、自分自身を取り巻く『スキャンダル』そのものを、自らの力の源泉に変えてしまったように見える。」
ラスプーチン:(ワイルドの言葉に満足げに頷く)「…賢い男よ。お主には、物事の裏側が見えるらしいな。」
あすか:「しかし、ラスプーチンさん。あなたが宮廷にいた時期、ロシアは第一次世界大戦に突入し、国内は疲弊していました。あなたへの反発が、帝政への不満を高め、革命の一因になったという見方もありますが…?」
ラスプーチン:(表情を変えずに)「…戦争も、革命も、時代の大きな流れよ。ワシ一人の力でどうこうできるものではない。ただ、ワシは最後まで、皇帝陛下とロシアのために祈り続けた…それだけだ。」
あすか:「(むむ…煙に巻かれた感じ…)皆様、ありがとうございました。それぞれの『スキャンダル』について、その『真実』と『言い分』、そして複雑な思いが語られました。王としての責任、王妃としての孤独、芸術家としての信念、そして謎に包まれた祈祷僧の論理…。いやぁ、初回から濃密な時間でしたね!」
あすか:「しかし、皆さんの話を聞いていると、スキャンダルはご本人の行動だけで生まれるものではない、という側面も強く感じられます。では一体、誰が、何が、スキャンダルを作り出していくのか…?次のラウンドでは、その点について、さらに深く掘り下げてみたいと思います!」