アフタートーク:歴史の味、未来の一杯
(エンディング収録が終わり、あすかに丁寧に見送られたヘンリー8世、マリー・アントワネット、オスカー・ワイルド、ラスプーチンの4人は、どっと押し寄せた疲労感と、奇妙な高揚感を抱えながら、再び『SalondesÉtoilesPerdues(失われた星々のサロン)』の扉を開けた。)
オスカー・ワイルド:「ふぅ…終わった、終わった。いやはや、なかなか骨の折れる『お茶会』だったね。魂がすり減った気分だよ。」(長椅子にどさりと身を沈める)
ヘンリー8世:「うむ、確かに疲れたな!あの案内人め、なかなか鋭いところを突いてきおるわ!」(椅子に腰かけ、大きく伸びをする)
マリー・アントワネット:「本当に…でも、皆様とこうしてお話しできて、わたくしにとっては、とても貴重な時間でしたわ。」(安堵の微笑みを浮かべる)
ラスプーチン:「フン…まあ、たまにはこういうのも悪くない。」(いつもの薄暗いコーナーに向かおうとして、ふと足を止める)
(彼らの目に飛び込んできたのは、先ほどの休憩時間よりもさらに豪華になった、テーブルいっぱいの料理と飲み物だった。部屋には、肉の焼ける香ばしい匂い、甘い菓子の香り、芳醇な酒の香り、そして異国のスパイスの香りが混じり合い、食欲をそそっていた。)
ヘンリー8世:「おおっ!これは見事な馳走ではないか!スタッフとやらも、なかなか気が利く!」(目を輝かせ、早速テーブルに近づく)
マリー・アントワネット:「まあ、綺麗…!見ているだけで心が躍りますわ!」(デザートが並ぶ一角に駆け寄る)
オスカー・ワイルド:「ほう、これはこれは…打ち上げ、というわけか。悪くない趣向だね。」(ワインボトルを手に取り、吟味するように眺める)
ラスプーチン:(黙って料理全体を見渡し、満足げに頷く)「…腹が減っては、魂も力を失うからな。」
ヘンリー8世:(テーブルの中央に鎮座する、巨大なローストビーフを指し示し)「さて、皆の者!まずはこれを試してみるがよい!これぞ、我がイングランドが誇る、最高のローストビーフだ!良いか、肉はこうして厚切りにして、たっぷりのグレイビーソースで味わうのが流儀よ!力がみなぎるぞ!」(自らナイフを手に取り、見事な手つきで分厚く切り分け、それぞれの皿に豪快に乗せていく)
マリー・アントワネット:(少し驚きながらも、上品にナイフとフォークを手に取り)「まあ、陛下、ありがとうございます。…いただきますわ。」
(小さく切り分け、口に運ぶ)
「…!とても…力強いお味ですのね。少し驚きましたけれど、美味しいですわ。」
オスカー・ワイルド:(批評家のような目で肉を眺め、ゆっくりと味わう)「ふむ…確かに、滋味豊かでパワフルな味わいだ。少々、野趣が過ぎる感もあるが…このエールと合わせれば、なるほど、悪くないマリアージュだね。」(エールを一口飲む)
ラスプーチン:(黙々と大きな肉の塊を平らげ、骨についた肉までしゃぶりつく勢い)「うむ。…腹にたまる。良い。」(短く感想を述べる)
ヘンリー8世:(満足げに)「であろう!さあ、遠慮はいらぬぞ、もっと食え!」
マリー・アントワネット:「では、わたくしからも、ぜひ皆様に召し上がっていただきたいものが…」
(デザートのテーブルから、美しいデコレーションケーキと色とりどりのマカロンが乗った皿を持ってくる)
「わたくしの宮廷では、食後の語らいに、こうした見た目も美しいお菓子は欠かせませんでしたの。特にこのクグロフは、わたくしの故郷、オーストリアの思い出の味でもありますのよ。」(優雅に説明し、取り分ける)
ヘンリー8世:(眉をひそめ)「ふん、甘いものは好かぬのだが…まあ、王妃の勧めとあらば、一口だけ貰おうか。」
(小さなマカロンを一つ、口に放り込む)
「む…!これは…思ったより悪くないな。軽い食感だ。」(意外にも気に入った様子)
オスカー・ワイルド:「(ケーキをうっとりと眺め)おお、これはまさに芸術品だ!味はもちろんのこと、この繊細な造形美…食べるのが惜しいくらいだよ、マダム。」
(フォークで上品に一口)
「…素晴らしい!甘美で、軽やかで、口の中で夢のように溶けていく…まさに至福だね。」(甘党の一面を覗かせる)
ラスプーチン:(マカロンを一つ、無造作に口に入れ、もぐもぐと咀嚼する)「………。」
(しばらく黙っていたが、ぽつりと)
「…これは…心が、和むな。」
(意外な言葉に、他の三人が少し驚く)
マリー・アントワネット:(嬉しそうに)「まあ、ラスプーチン様にもお気に召して?よかったですわ!」
オスカー・ワイルド:「さて、次は私の番かな?まあ、私の時代には、これといった『国民食』のようなものはなかったが…洗練された会話には、洗練された食事が欠かせない、というのが私の持論でね。」
(テーブルから、氷の上に盛られた新鮮な牡蠣、スモークサーモンのムース、数種類の輸入チーズが並んだプレートを持ってくる)
「特にこのオイスターは、海の滋養と、ほのかな官能性を感じさせてくれる、まさに『食べる宝石』だよ。上質な白ワインと共に、ぜひ。」(自らワインを注いで回る)
ヘンリー8世:(牡蠣を一つ、豪快にすする)「ん!これは精力がつきそうだ!小腹が空いていたところだ、ちょうど良い!」(次々と牡蠣を平らげる)
マリー・アントワネット:「まあ、とてもお洒落ですわね、ワイルド様。このサーモンのムース、口当たりが滑らかで、とても美味しいですわ。」(優雅に味わう)
ラスプーチン:(チーズをナイフで切り分け、黒パンに乗せて口に運ぶ)「…ふむ。酒が進むな。」(テーブルにあったウォッカのボトルを見つけ、グラスに注いで呷る)
オスカー・ワイルド:「おや、怪僧殿はそちらがお好みか。まあ、彼の地の酒もまた、魂を熱くするには良いのかもしれないね。」
ラスプーチン:(ウォッカのグラスを置き、今度は自分が用意された料理の前に立つ。そこには、深い赤色をしたボルシチのスープ鍋、こんがりと焼けたピロシキ、ライ麦の黒パン、そして小さな瓶に入った黒い粒々(キャビア)があった)「…さて、最後はワシの番か。見た目は地味だがな、これはボルシチというスープだ。寒い国の、体が芯から温まる料理よ。こっちはピロシキ。肉や野菜をパン生地で包んで焼いたものだ。…そして、まあ、もし興味があるなら、この黒い粒も試してみるがいい。ヴォルガ川のチョウザメの卵だ。」(ぶっきらぼうだが、少しだけ誇らしげに紹介する)
ヘンリー8世:(ボルシチをスプーンで掬い、味見する)「む…!これは…酸味と甘みが絶妙だな!体が温まる!ピロシキとやらも、なかなか腹にたまる。うむ、気に入ったぞ!」(意外にもロシア料理が口に合った様子)
マリー・アントワネット:(恐る恐るボルシチを一口)「…まあ、少し変わったお味ですけれど…深みがあって、素朴で、なんだか心が落ち着きますわね。体がぽかぽかいたします。」(ピロシキも小さくかじる)
オスカー・ワイルド:(キャビアに興味津々で、小さなスプーンで掬い、クラッカーに乗せる)「ほう、これが噂に聞くキャビアか。海の宝石とはよく言ったものだ。」
(口に入れ、目を閉じて味わう)
「…なるほど。濃厚で、複雑で、塩気が強い…これは、冷えたウォッカと合わせると、実に…危険な味わいだね。」(ラスプーチンを見てニヤリとする)
ラスプーチン:(満足げに頷く)
(それぞれの料理を味わいながら、いつしか4人の間には、和やかな空気が流れていた。)
オスカー・ワイルド:「いやはや、しかし、あの案内人のあすか嬢はなかなかの切れ者だったね。我々の痛いところを、実に巧みに突いてくる。」
マリー・アントワネット:「ええ、本当に…時折、心が読まれているのではないかと、ドキッといたしましたわ。」
ヘンリー8世:「ふん!余に対して、随分と無礼な口もきいたがな!まあ、度胸だけは認めてやろう!」
ラスプーチン:「ククク…あの娘、ただ者ではないな。もしかしたら、ワシらよりもよっぽど『力』を持っているのかもしれんぞ。」
ヘンリー8世:(エールを飲み干し)「しかし、ワイルドよ!貴様のあの最後の警句、なかなか洒落ていたではないか!」
オスカー・ワイルド:「お褒めにあずかり光栄です、陛下。陛下こそ、最後まで王としての威厳を保たれ、見事でしたよ。…少々、癇癪持ちではありますがね。」
ヘンリー8世:「なにおぅ!」
マリー・アントワネット:「ふふふ…皆様、本当に面白い方々ですわね。最初は、どんな恐ろしい方々なのかと身構えておりましたけれど…。」
ラスプーチン:「人は見かけによらぬものよ、王妃様。そして、見かけ通りのこともある。」
(誰かがグラスを掲げる)
オスカー・ワイルド:「さて、では…この奇妙で、刺激的で、そして何故だか少し心温まる、時空を超えた打ち上げに、乾杯しようではないか!」
ヘンリー8世:「うむ!乾杯だ!」
マリー・アントワネット:「ええ、乾杯!」
ラスプーチン:「…乾杯。」
(カチン、とグラスが合わさる音が、不思議な調度品に囲まれた部屋に響く。収録中の激しい対立が嘘のように、そこには互いの健闘を称え合い、つかの間の交流を楽しむ4人の姿があった。)
ヘンリー8世:「しかし、この後はどうなるのだ?また、それぞれの時代に戻るのか?」
マリー・アントワネット:「…そうなのでしょうね。少し…名残惜しいですわ。」
オスカー・ワイルド:「まあ、これも一期一会、ということかな。願わくば、次に相見える時が、もう少し穏やかなテーマであることを祈ろう。」
ラスプーチン:「フン…また会うことがあるかは、神のみぞ知る、だ。」
(賑やかだった宴も、少しずつ終わりを告げようとしていた。それぞれが胸に去来する思いを抱えながら、残りの料理や酒を静かに味わう。)
オスカー・ワイルド:「さて、そろそろお開きの時間かな。陛下、王妃様、怪僧殿…達者で。」
ヘンリー8世:「うむ。貴様らもな。」
マリー・アントワネット:「皆様、本当にありがとうございました。お元気で…。」
ラスプーチン:「……さらばだ。」
(彼らは互いに頷き合い、あるいは軽く会釈を交わし、一人、また一人と、控室の扉の向こう…それぞれの時代へと繋がるであろう光の中へと、姿を消していく。最後に残ったのは、たくさんの空になった皿やグラス、そして、様々な時代の香りが混じり合った、賑やかな宴の残り香だけだった。)




