著者:大吾 「四十二代目 竹取の翁」
福岡県のとある山。成長の遅い『輝夜竹』を今日も丁寧に管理するのは、先祖代々竹栽培を営む斎藤家の当主、『四十二代目 竹取の翁』(63)であった。
そしてこの夏、千年ぶりに竹から、姫『かぐや』が誕生することがわかると、斎藤家は大騒ぎであった。
八月十一日、丹精込めて育てた輝夜竹が光りだすと、光った部分の上が全て腐り果てて気化した。そして中からそれは可愛らしい赤ん坊が現れた。これには翁の妻、千代子も大喜びであった。
「これがかぐや姫なのね」
「そうだ。千年越し、斎藤家の悲願だ」
「この子にはかぐや姫と名付けるのでいいのかしら」
「あぁ、そのつもりだ」
千代子は、かぐや姫におしめを取り付けて慎重に持った。このとき、千代子はかぐや姫の驚愕の真実に気が付いてしまったが、それを翁に言うことはなかった。
翌日の朝、かぐや姫がすやすやと寝ている間に千代子は翁に言った。
「あの、かぐや姫についてなんですけど」
「どうした」
「あの子、男の子なんですよ」
「何だって⁉」
「男の子に姫ってどうなんでしょう」
「うーむ、確かに。というか何で斎藤家は先祖代々竹から生まれてくる子どもが女の子だと思い続けていたのだろう?」
「どうします? 名前を変えますか?」
「無理だ。もう名前は市役所に提出しちゃった」
「なーにやってんのさっ‼」
二人は悩んだ。とにかく悩んんだ。悩んでいる内にかぐや姫は小学生のようなたくましい少年になった。
「千代子。我々は、かぐや姫の成長スピードを舐めていたのかもしれない」
「えぇ……。あの、よくないのはわかっているんですが、私には彼を育てられる自信がありません」
千代子には嫌な予感があった。その怯えは的中した。
かぐや姫はグレた。
「何で俺の名前がかぐや姫なんだよ。どこが姫だよ」
「じゃあどんな名前が望みか?」
翁が尋ねた。
「かぐや帝」
「かぐやは気に入っているのか」
「ひでー家だよ、ホント。第一、竹取の翁ってなんだよ。名跡を継ぐ必要あんのかよ?」
とうとう翁も手が付けられなくなった。
かぐや姫の就寝中、翁と千代子は再び話し合った。
「千代子、道徳的に良くないのはわかっている。だがもうどうしようもない。……かぐや姫を捨てよう」
「でもどこに捨てるの?」
「……月?」
「月ってどこよ」
「斎藤家の取引先に、『月島コーポレーション』がある。そこの社長さんは度々子どもが欲しいと嘆いていた。彼にあげよう。彼ならかぐや姫をうまく使った商売ができるだろう」
「月島コーポレーションって、家具メーカーでしょ。かぐや姫を家具屋の姫にするつもり?」
「そう」
「いいでしょう」
こうして、かぐや姫は月島社長の養子となった。
そして斎藤家はかぐや姫を生み出すことを金輪際禁じる家族則を制定した。
「かぐや姫なんてろくでもねえ」
それが翁として言い渡した最後の言葉であった。後日、竹取の翁は廃名跡となった。