~同棲から始まる百合ライフ~
読んでくださりありがとうございます。
私の名前はエレノア・ウィンスロー。ウィンスロー伯爵家の末娘であり、貴族の家系に生まれ育った。しかし、家族の中では私は孤独だ。
周囲の期待と厳しい規範に閉じ込められ、ひどくいじめられているように感じる。
父親は私に男尊女卑を根底とした令嬢教育をおしつけ、いつも「女は男に尽くすんだ」といってきた。
姉たちはいつも私をイジメる。なんでも、動きがかったるくてイラつくとのことだ。毎日、水をかけられたり、持ち物を壊されたりする。
父はそんな姉たちをとがめない。私がイジメられていることに興味がないのだ。
私は家族の中で浮いているのを感じる。私は彼らにはとても理解されない。もっと自由に生きたいと思うのは、罪なのか?
そして、ある日、私にとっての試練がやってきた。
父は私を無理に嫁がせた。
相手の名前はエドワード・ローレンス公爵。彼は高貴な名家の出身で、父が私を彼に引き渡すことを望んだ。理不尽な決定だった。私は愛情も知り合いもないまま、結婚を強制された。
エドワードとの婚約は、私の中で恐怖を引き起こした。
彼の冷酷さや非情さは有名だった。前エドワードに嫁いだ令嬢たちは皆、三日で逃げだしたそうだ。
私は不安に襲われた、こんな地獄のような生活にしなければならないのかと思うと、息が詰まるようだった。
夜、枕元で泣きながらエドワードの名前をつぶやいた。
私は彼を知らないし、彼が私をイジメることを恐れていた。
彼が本当に冷酷であるなら、私の人生はますまず苦しくなるだろう。どうか、彼が私を理解し、受け入れてくれますようにと祈った。
*
公爵邸前。
私は門の前に立って、ひとりで深いため息をついていた。
公爵邸はお化け屋敷のような建物だった。ボロボロのレンガに弦が巻きついている。
私はいつも通り、孤独で寂しい気持ちに囚われていた。
本当にここでやっていけるのだろうか?
そんなとき。
「誰だ?」
私の肩に触れる手に、驚きと共に温かさを感じた。振り返ると、そこには美しい人が訝し気な表情を浮かべて立っていた。
彼こそが、噂で聞いた公爵エドワードだ。
金色の短髪は衣のように美しく、線の細い顔は美しく、女性のようだった。
彼の目は深い赤色で、私をじっと見つめている。
それは冷酷さをはらんだ非情なまなざしだった。
「エドワード様。はじめまして、今日からここに嫁ぐことになりましたエレノア・ウィンスローです」
「ああ、そうか。君が……」
エドワードは品定めするように私を見つめた。私は彼の視線に恐怖を覚えたが、同時に彼が私を理解してくれるかもしれないという希望も抱いた。
彼は私のあごをぐいっとつかみ、顔を上に向かせた。美しい顔と赤い目が眼前に迫り、私の胸が高鳴る。
「なるほど、悪くない」
エドワードはそういうと、私のあごから手を放した。私は彼に触れられたところが熱くなり、思わず頬を手で押さえる。
彼は私の手にそっと触れた。彼の温かい手が私の少し汗ばんだ手に重ねられる。
彼は私の耳元で囁く。
「今日からお前は俺の奴隷だ」
私は彼の声と吐息に背筋がぞくぞくとした。彼は私を冷たく見つめると、私を置いて屋敷へと入っていった。
「これからよろしくお願いしますね」
私はエドワードの後ろ姿に声をかけたが、彼は返事をしなかった。
やっぱり、こうなるのか。
私が絶望にさいなまれたのは必然だった。
*
公爵邸の自室。
私はベッドに横たわりながら、エドワードに冷たくされたことを思い返していた。
あの後、彼は私を部屋まで案内すると、「お前は今日からこの部屋で暮らせ」とだけいって去っていった。
それから私は彼と一度も顔を合わせていない。食事も別々だ。
まるで、私がいないかのように振る舞っている。
「はあ」
私は深いため息をついた。 やっぱり、エドワードは噂通りの人物だった。彼は冷酷で人情のない人だ。私なんて彼にとってどうでもいいのだろう。
「でも……」
それでも私は彼が気になった。彼の声を聞くと胸が高鳴るし、彼の手に触れられたことを思い出すと胸が熱くなる。
なんだろうこの感情は……。
そう考えていると、あることを思い出した。
「今日、風呂にはいっていない……」
私は起き上がると、風呂へ向った。
*
風呂場。
私は服を脱ぎ、裸になると、浴場に入った。
この屋敷にはメイドもなにもいないので、お風呂の準備も自分でしなくてはならない。
浴槽にゆっくりと体を浸した。温かい湯が体に染みわたり、緊張感や不安を解きほぐしていくようだ。
「ふう」私は一息つくと、浴槽から立ち上がった。
そのときだった。
「え?」――エドワードが浴場に入ってきた。
彼は全裸で、仁王立ちしていて……その彼の股間にあるものも丸見え……。
私は口をあけたまま固まってしまった。
エドワード。彼の股間には――
「み、見るな! 奴隷!」
――なにもなかったのだ。
「もしかして――女の人?」
エドワードはなかばあきらめたように、しずかにうなずいた。
2
私はエドワードを椅子に座らせると、彼女の後ろに立った。
「あのエドワードさま、なぜ男装を?」
「……」
エドワードはなにも答えなかった。彼女はうつむいていて、その目は床のタイルを見つめているようだった。金色の髪が彼女の青白いうなじにかかっており、それが色っぽくて美しいと思った。
「あの、どうして?」
「……」
私は彼女のうなじから視線をそらすと、再び質問した。
「……どういうことですか?」
「……それは」彼女は言いよどむと、小さな声でいった。
「私は家を継がなければならないからという理由で男として育てられたのだ」
しずかにエドワードはかたる。
「私の家はもともと、男が継ぐことになっていた。しかし、男がうまれなかった。だから、ある時から、長女の私は家を継がせるために男として育てられたのだ」
彼女はそういうと再び黙り込んだ。
つまり、エドワードは本当は女の子で、家のしきたりのために男の子として育てられたということか?
それはなんというか、とても気の毒だ。
「……絶対にこのことは他言無用だ」
急にエドワードの視線に殺気がおびる。
「もし、誰かに話したら……」
エドワードはそういうと、手を刀の形にした。
手刀だ。
そして、その手刀を私の喉元に突き付けた。
私は恐怖で体を硬直させた。彼女は冷たいまなざしで私を見つめている。
「……わかりました」
私がそういうと、彼女はようやく手を下げた。