第2話 婚約破棄した王子は戸惑う
馬車から下りるとゲームで見る様な城が目に映り、立ち尽くしているとアシュリーの両親から中へ入るよう促される。
「いつ観ても立派な城だ。」
「そうね、カルト様がお待ちになられているわ早く行きましょう。」
「凄い大きな城だな。」
《当たり前でしょ、カルト様は国一番の第一王子なんだら!》
城へ入ると白髪で青い目をした青年が語りかけて来た。
「アシュリー、待ってたよ。」
「カルト王子! 何も自ら出迎えなくとも。」
「ええ、こちらからお伺いしますのに。」
《あ〜カルト様! 今日もカッコいいわ♡》
「何だお前、初対面の癖にやけに馴れ馴れしいな?」
その瞬間ピシッと空気が凍り付くのを感じた。
《な、ななな!! 何て事言いますの!?》
「あ、アシュリー!? カルト様に失礼だろう今直ぐ謝罪なさい!!」
「だ、大丈夫ですよブランディッシュ公爵。 僕は気にしてませんから。」
「し、しかし!」
「きっと緊張してるに違いありませんから。」
カルト王子は俺を目を見て微笑みかける。
「も、申し訳ありませんカルト王子。 アシュリー、先のような無礼は二度と行うな? 良いな?」
「へーいへい。」
《ちょっちょっちょっ!! なんて態度取ってますの!? カルト様に嫌われでもしたらどうすんのよ!!》
「返事ははいだろう!!」
「はい。」
(お嬢様言葉って難しいな。)
何故だろうか両親は俺の態度が気に食わないのか明らかに苛立ち王子の前だと言うのに拳を握り締めている。
「はは、それよりアシュリーをお借りしますね。」
「はい、また無礼を被ることがあれば罰を与えますのでお申しください。」
《罰!?》
「じゃあ行こうか。」
「はい。」
「大丈夫かしらあの子……。」
「幾らカルト王子の伴侶になるとは言え見過ごせん発言だ、何処で育て方を間違えたか……。」
カルト王子は俺の手を引き城内を散歩しながら話しかけてくる。
「君の為に色々準備したんだ、まさかあの女が君をイジメていたなんて普通は思わないが証拠が出揃った。 今日でローナに婚約破棄すると同時に聖女の力を認められた君と添い遂げられる。」
「えーと……?」
(え、何? 何の話ししてんの?)
《そ、そうでしたわ! 今日はローナをカルト様に頼んで国外追放してもらう讃談をしていたのをすっかり忘れてましたわ!! てか何でカルト様もわたくしの身体を悪霊が支配してると気付きませんの!? 愛があるなら可能でしょ!!》
「どうしたんだい? ああ僕と結婚するから目的の一つが頭から抜け落ちてるんだね、気持ちは解るよ僕だって同じ気持ちさ。」
「え、何? 気持ち悪。」
《おいゴルァ! さっきからカルト様に失礼極まりない言葉投げかけるな!! それに話し合わせなさい!!》
「煩いなあ。」
「ほ、本当にどうしたんだい? 何時もの君じゃないみたいだ。」
《カルト様! やっと気付いてくれた!? あー今直ぐ抱き着いて甘えたい♡》
「アシュリー?」
(これで良いのかな?)
俺はアシュリーの気持ちを汲んでカルト王子に抱き着くと何時もの公爵令嬢として扱われた。
「はは、何だ何時ものアシュリーじゃないか緊張でおかしくなっていただけなんだね。 でも、甘えるのはローナを国から追い出した後でね。」
《うがああああ! こんのわたくしの真似をしてカルト様に包容してもらってんじゃないわよ! これじゃ折角気付いてもらえそうだったのに意味無いじゃない!!》
「ところでトイレ何処?」
「なんだい? トイレの場所も忘れるくらい楽しみにしてたのか、ほら直ぐそこだよ。」
「ちょっくら行って来る。」
《はぁ……この際生理現象くらいは多目に見て差し上げますわ…………って何処向かってますの!? そっちは男子トイレですわよ!! カルト様違うの!! これはわたくしだけどわたくしじゃ無いの信じてええええ!!》
この時のカルト王子の表情はなんとも言えない顔でほぼが引き攣っていた。
「ご機嫌よう。」
「あ、これはアシュリー様ご機嫌麗しゅう……!?」
「何か?」
「いえ、何でも……あの見ようとしないでもらえます?」
《何か? じゃないわよ! わたくしの身体で立ちションなんてしようとしてんじゃないわよ! それに汚らしい物を見ようとすんな!!》
「あ、そうだった! 個室じゃないと駄目だった!」
俺は先に居たオジサンにお辞儀をすると個室のトイレに入り用をたした後に廊下で待っていたカルト王子を見ると何やら自問自答している様に思えた。
「顔色悪いけど大丈夫か?」
「はっ! あ、ああ大丈夫びっくりしただけだから……ははは……」
(まさか違うよな? 単に興味本位で入っただけだよね?)
《カルト様違うんです! 全部こいつが悪いんです!!》
「こちらに居られましたかカルト王子、皆会場で待っておられますぞ。」
「そ、そうかアシュリー行こうか。」
大臣だろうか、ふくよかな体型に髭を蓄えた糸目の老人がカルト王子に語りかけると再び俺は手を引かれ会場まで連れて行かれパーティーが一段落したところでダンスパーティーが始まる。
「本日は僕の婚約パーティーに来てくれて有り難く思う、それと重大発表がある聴いてくれ。」
《ついにこの時が来たわ! あの平民風情から聖女まで成り上がったローナを国外追放する時が!!》
その時、会場のライトが消えて暗闇へとなると俺はカルト王子に腕を引かれ困り顔の茶髪が腰までかかる緑色の目をした控えめな胸をした女性の前に連れて行かれる。
そして、ライトが点くとカルト王子は女性に対して高らかに宣言する。
「ローナ! 僕は君との婚約を破棄する!!」
「え? え?? それはどういう事ですか?」
ローナと呼ばれた女性は今起きている状況が理解出来ないのか、周囲の注目を浴びあたふたと周りを見ている。
「分からないのか? ローナ、君は聖女育成学校で度重なる嫌がらせをアシュリーにして来ただろう!」
「し、知らないわ! 私そんなこと……。」
「ふん、卑しい女め! アシュリーから聴いたぞ証拠もあるんだ、なあアシュリー!」
ざわざわと周囲がざわめき始めるが俺には何の事かサッパリ分からず素で返す。
「……何の話し?」
「え?」
《そうでしたわ! こいつわたくしに合わせる知能を持ち合せてなかった!!》
カルト王子の表情は戸惑いに満ち、アシュリーは焦り、ローナは何が起きているのか理解出来ない状況が作り出された。