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白い猫に

次の日

聖はマユに一部始終を話した。

白木が語った全てを。

結月薫は、問い詰めたくせに、謎に話を打ち切ったと。


話が進むうちにマユの瞳は煌めいてくる。

「セイ、雛飾りの写真、昔のと今の、もう一度見せて」

「いいけど」

2枚並べた画像を見せる


マユは

「こ、わ、い」と呟く。

そして暫く

部屋の中を歩き回った。


推理が始まったのか。


「なにが、怖いの?」

「あれと、あれ(指を折る)」

「2つ、あるの?」



「考えてみればこの写真、どうして女将さんが顔に怪我した、その日なのか、不思議よね」

「……偶然、じゃないの?」

「雛祭りは毎年の行事だったはず」

「それは……毎年写真を撮ってたけど、たまたまこの写真を飾ったとか」

「お嬢さんが子供の頃の写真でも良かったんじゃない?」

たとえば初節句の写真。

真新しい雛飾りの前で、若夫婦が赤い着物を着せた赤ん坊を抱いている、

そんな写真。


「最後の写真になってしまったから、かも。お嬢さんも奥さんも、これが最後の雛祭りだった」

改めて見れば、主の妻は痩せて顔色が青黒い。

床に臥せっている病人が、この時だけ着飾り、かろうじて身を起こしている風にも見える。


「先が短いと知っていた奥さんが、この年に限って集合写真を撮ったんじゃないかしら?」

「あ、それは有り得るか」

「当時は女将さん、だったでしょう。元気なときは店を仕切っていた」

「そうだよな。旦那は調理場を仕切り、他は女将の領域。……でも、それが何か?」

「この人が、どんな思いをしていたか想像してみたの……」

 娘は容貌が醜くなっていき、陰で化け物と呼ばれていた。

 自身は病に倒れ、女将の仕事が勤まらない。

 そこへ若い娘が仲居として登場。

 娘の醜さを際立たせるように、美しい娘。

 気立てもいい。

 申し分の無い娘は店の誰からも愛された。

 夫も、例外では無かった。


「えっ、そうなの?……女将さんは、後妻になったのは奥さんの遺言と」

「遺言でも、好きでもない人と結婚しないでしょ。奥さんは夫と若い仲居が好き合ってるのを、知ってたかも」

「そっか。自分が死んだら気兼ねなく一緒になっていいと、許可した訳か。美しい話じゃ無いか」

「美談だと、聞いたときにはそう思ったわ。でもね……違うかも」

「どう、違うの?」


「可愛い仲居は目が見えなくなり、顔が醜くなったのよ。原因は雛人形の祟りであれ何であれ、喰刀庵に責任はあるでしょう。奥さんの遺言は、醜くなった仲居を次の女将にと、だった。後に夫と仲居が夫婦になったのは自分の指示だと、世間にはそうしておきたかった」

「……どういうこと?……ちょっと話が見えない」

「奥さんは、夫が若い仲居に恋しているのが、耐えられなかったの。屈辱だったの」

 マユは、この人が、息子に水酸化ナトリウムを盛らせたと、言う。


「お嬢さん、じゃなくて?」

「ええ。だって白木さんの証言があるじゃない。心の優しい人だったと」

「確かに、そこは強調していたよ」

「目が見えなくなったのは、お嬢さんを蔑んだ罰が当たったんだと、女将さんは言ってたのよね。お嬢さんが良い人だったから自分に非があるという意味にも取れるわ」


「じゃあ、なんで自殺したと思う?」

「自分がいない方がいいと、考えた。お嬢さんは母親の看病をしていたかも。亡くなってしまえば自分の役割は無い」

「でも首つりなんかしたら、店にとってはマイナスだろ。父親と新しい女将を苦しめる結果になる」

「そうでしょ。だからね、お嬢さんは考えたの。新しい女将をこれ以上不幸にしたくないから考えたの」

 マユは、自殺を隠蔽し、駆け落ちを偽装したのは主では無く、自殺した本人では無いかと言い出した。


「遺書があったはずよ。後の事を父親に頼む内容の」

「なるほど。普通遺書は、あるよな」

「そうでしょう。首吊ってる娘を発見した父親が即座に、『コレはまずい、そうだ、あの若い板前と駆け落ちしたことにしよう』と、思いつくかしら」

 驚き

 嘆き

 遺書を手にし、

 パニクって何も考えられない父親は

 遺書に書かれた娘の言葉だけが道しるべではなかったか?

 

 自殺を伏せ、家出したことにして欲しい、と書かれていたのでは? 


「お嬢さんメチャ可哀想。不幸すぎる。優しすぎるよ……でも何が怖いの?」

「……調理場」

「ああ、調理場に一旦運んだんだ」

「一旦、じゃないと思う」

「へっ?」


「だって女将さん、言ってたんでしょ」

(旦那様は、お祝い事のように皆に客に出す料理を振る舞われた。

珍しい若い鹿だったんでしょうね。

油の多い肉を水炊きにして皆で頂きました

あれほど油っぽい鹿肉は後にも先にも、知らない)


「あ、え、まさか……お嬢さんを食べちゃったの?」

「そう」

「な、なんで、そんな恐ろしい……」

「本人の望みだった。つまり遺書に食べて欲しいと、それも書いてあったの」

「可愛い娘を解体して?……考えられない」

「愛しているから望みを叶えてあげたのかも」

「奇天烈な望みだと思うけど」

「冷たい土の中に埋められるより、焼いて骨と灰になるより家族に食べられたい、純粋な願いとも思えるけど」

「やっぱ怖すぎる。有り得ない気がするけど。……なんで、食べちゃったと?」

「父親は白木さんに、遺書を見せたと思うの。案外、駆け落ち話は白木さんのアイデアかも。秘密を知った自分は消えた方がいいと。父親も娘1人の家出より、同じ嘘なら、そっちがいいと思った。

白木さんは知ってるのよ。調理場に運んだ、その後のコトを。遺体の衣服を脱がせて、調理台に寝かせるくらいは手伝ったかもしれないわ。でも……さすがに口にはしなかった。カオルさんが省いていると指摘した通り」


(その後、山の中の一族の墓地に埋めたんや。……そう、しとこ)

薫がマユと同じ推理をしていたと、今になって分かった。


「『自殺隠し』の片棒を担いだ、それだけのことにしては白木さん、大げさでしょう。セイを呼びつけたり雛人形送ったり。他に怖い秘密があるんじゃないかと……カオルさんも、そこに引っかかった」

「成る程」

 調理台に横たわる女の裸体と

 出刃包丁を握る男。

 18才の白木少年は、どれだけ恐ろしかっただろう。


「……こわい、な。……もう一つ怖いコトがあるの?」

「ええ。写真見て。今年の方。お雛様の顔を見て」

 霊現象で顔面変形した怖い顔。

 二度と見たくなかたんだけど……あ、あれ?


「この前と顔が変わっているでしょ。40年前と同じ顔に、戻ってるの」

「うそ、いやホントだ。え、じゃあ前見た怖い顔は何?……錯覚か?」

「錯覚じゃ無いでしょ」

 そうだ、薫もマユも同じ顔を見た。

「じゃあ、なんで?」

「人形供養の寺で、焼いたのよね」

「そう聞いた」

 

聖は、画像を完全消去する。


「こわかった?」

「うん」


実物の、人形の顔が変わるより

画像が勝手に変化してるほうが……怖い。


「喰刀庵の災いは、不気味な人形が招いたのか。

 白木も写真を見て、そうだと思い焼いたんだ。

 おっかないな」

 

「それはどうだか。

 罪も災いも不気味な人形のせいにして、焼いて終わらせたのは、正解ね。

 もう、喰刀庵のコトは忘れましょう。

 セイには無関係なんだから。

 関係があるのは白木さんだけでしょ。

 それも、 

 セイに秘密の半分を話して、約束から解放された気分になって、スッキリしたでしょうね。

 お嬢さんのことも忘れるに違いないわ」

 

「いや、それはどうかな」

 

 白い大きな猫がひょいと頭に浮かぶ。

 丹精込めて作った剥製の、手触りまでも蘇る。

 記憶の中では、白木とセットになっている猫。

 

 あの猫の名前は「タマ」だった。

 

(……あとにも先にも、あれほど上品で優しい女は知らんな。

 見た目は個性的やが、ええ女やったんや。……タマさんは)


聖は、あの猫が、お嬢さんの生まれ変わりだったなら、

いいのにと、思った。


化け物と呼ばれた、可哀想なお嬢様の人生は、自死で幕を閉じたが

白い美しい猫に生まれ変わり

醜い姿でも好いてくれた男に

可愛がられ大切にされ長く生き幸せだったと。


思うことにした。

 



最後まで読んで頂きありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 完結おめでとうございます! 人形は怖いですよね。 何が怖いと明言できないのですけど、お祝いの品だろうと怖い。 目に見えないものが入りやすい性質があるせいで怖く感じるのかもしれませんね。 …
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