step8 明るい天気 嵐な運命
テルテル坊主、テル坊主。
明日天気に・・・・・・しないでおくれ。
むしろ大雨!
台風大歓迎!
ていうか、嵐ばっちこーい!!!
わたしの昨晩の祈りもなんのその。
今日も快晴、いい天気。
窓の外には、腹が立つくらい澄み切った青空が広がっていた。
『晴れたな!楽しみだな!バス酔いすんなよ!』
by夏己。
朝一で届いた爽やかメールが、今朝のわたしの目覚ましだった。
晴れたな。
残念ながらね。
楽しみだな。
むしろ悲しみを覚えます。
バス酔いすんなよ。
そてはこっちの台詞ですが。
一文一文、そんなつっこみを入れながら、ありがたく読ませていただいた。
「早桜!そろそろ時間よ?綾君はもう待ってるわよ」
階下から聞こえてくる、母さんの声。
「ふわぁい」
欠伸混じりに返事をして、わたしはまだ思いまぶたを擦った。
そうですね。
ここ最近の、わたしの不幸の最大の元凶はこんな時だけ早起きなんですね。
普段は低血圧だのなんだので、朝はすこぶる不機嫌のくせにね。
しかも、わたしの前でだけね!
ふんっ。
「あたしポッキーいっぱい持ってきたんだー。全部制覇しようね」
にこやかに恵ちゃん。
両手には、定番の苺味からご当地限定味まで。
ねえ。
沖縄限定サトウキビ味って、どうやって手に入れたの?
北海道限定毛ガニ味まであるし・・・。
ていうか、毛ガニ味って絶対美味しくないよね。
なにを思って製作会社はこんな味を生み出してしまったの!?
「俺、楽しみにしすぎて寝不足~。寝てたら起こしてくれない?」
大あくびをしながら、夏己が近付いてきた。
小学生かよ。
眠そうに頭を掻いて、夏己は早くもうとうとしている。
おいおい。
立ったまま寝ないでよね。
「はいはい、分かったから早くバス乗ろうよ」
喋り足らなさそうな恵ちゃんと、今にも土に寝転がりそうな夏己の背中を押し、わたしは無理矢理バスに乗り込んだ。
この時点でも、十分疲れたわたし。
でも、こんなことはこの遠足では、序の口だなんてことに、わたしはまだ気づいていなかった。
楽しげにバス内で繰り広げられるレクリエーション。
参加してないのは、わたしとバス酔いで早くもダウンしている夏己。
それと・・・横で端正な顔のまま寝息を立てている、綾。
何の因果か、主催者のヤロウが班の人と座れなんて言い出した所為で、わたしは綾と隣り合って座っている。
本当は、恵ちゃんと座りたかったんだけど、夏己の目がチワワみたいになってたから、仕方なく譲ってあげた。
でも、そんな青白い顔間近で見せるより、離れて座った方が良かったんじゃないの?
と思うのはわたしだけだろうか。
案の定、恵ちゃんは夏己から露骨に顔を背け、後ろの席にいる高鍋君と楽しそうにレクリエーションに参加している。
こんな姿を夏己は見られたくないだろうという、恵ちゃんなりの気遣いだろうけど、ちょっとそれじゃああいつが不憫だよ・・・。
でも、まあわたしも人のことを心配できる余裕はないんだけどね。
「ねぇ、本っ当に相沢君とは、何の関係も無いのよね?」
三坂さんの一件で、なんとなく嫌な予感はしていた。
レクリエーションの真っ最中だというのにも関わらず、わたしの周りには、こっそり席を抜け出してきた女子でいっぱいだった。
いっぱいって言っても、いわゆるイケイケ女子の方々だけなので、5、6人ってところなんだけどね。
でもさ、それでも・・・。
やっぱし怖いのよ。
香水の匂いはきついし、お化粧濃いし。
唇なんて、グロスの塗りすぎで天ぷら食べたみたいになってるのよ?
目の周りはアイシャドウだかマスカラだかで、パンダ顔負けに真っ黒だしね。
ま、恐ろしいから言わないけどさ。
そんな目に睨まれてごらんなさいよ。
わたしじゃなくても、怖いって。
「てゆうか~、関係ないならあんま相沢君とくっつかないでくれる」
「そうそ、ブンフソウオーって言葉、知ってるぅ?」
分不相応、のことですね。
『あのねぇ、わたしは別に綾の傍にいたいなんて、ただの一回も思ったこと無いんですけど・・・。
逆に、どれだけ近付かないようにしたか、あなた達知ってますか?
よく知りもしない人がしゃしゃり出てこないでください!』
って、言えたらかっこいいんだけどねぇ。
いわゆる普通の常識人なわたしが、そんなことを言えるはずも無く、拳を固めて俯いた。
視線を外していても、女子軍団がこっちを睨んでいるのが分かって、尚更顔を上げられなくなる。
「でしゃばってこないでほしいんだけど」
「まじ、ウザイから。いい気になってんなって」
なんにも言い返さないわたしに、女子軍団はそう吐き捨てると、自分達の席に戻っていってしまった。
香水の匂いも、遠ざかっていく。
「女子って、怖いね。かたまってくるんだ」
ぽそりと、綾が隣で言った。
ちくしょう、寝た振りしてたな、この野郎。
全ての原因はあんたなのに。
あんたが悪いのに、なんで見てみぬフリするの?
そう言いたかったけど、固めた拳に水滴が落ちてきたから止めた。
今言ったって、声が震えるだけ。
笑われるだけ。
わたしは、なにも悪くないのに・・・っ。
唇を噛んで、窓におでこをくっつけた。
周りの景色を見るフリをして、頬を拭う。
しょっぱい水は、もう少し止まりそうになかった。
やっぱり綾は、最低最悪な悪魔男。
波乱の遠足、スタート。
お久しぶりです。
遠足編、スタートです。
前後編では、収まりそうにありません。
とりあえず、移動編ですね。
酔う夏己君、ほっとく恵ちゃん。
看病はしてあげないんだね。
早桜は、ギャルにからまれます。
しかも、綾君見ないフリ。
最低です。
怒ってます、早桜。
これからは、大体三日に一度のペースで更新していこうと思います。
若干前よりスローペースですが、その分内容を濃くできるよう頑張りますので、末永くお付き合いくださいませ。
瑞夏