step6 運命はケーキみたいに甘くない
今日は恵ちゃんと夏己とケーキバイキング行くんだ~、って浮かれてたのはいつの話だったっけ…。
そう、確か今朝だったわね。
あの時は、幸せだったなぁ…。
たとえ隣に最低男がいたとしても、夏己は男のくせにケーキが好きだ、なんて考えてたのよ。
ああ。
あの楽しみにしていた一時が、今では何年も前に思える…。
「早桜~っ!このチョコケーキ滅茶苦茶美味しいんだけど!食べてみそ?」
しきりにケーキを薦めてくる恵ちゃん。
食べたケーキ全部薦めてくるから、ちょっと困る。
「ふぁいひんぐなんだはひゃ、ひっふぁいくわなひゃほんふふぞ!」
口いっぱいにケーキを詰め込んで、訳の分からない言葉|(おそらく、せこいことだと予測できる)を話す夏己。
彼の前には、まだ入って十分程だというのに、すでに皿が小高い山を成している。
ここまでは、当たり前の光景。
いつもなら、胸焼けしそうなくらい甘そうなケーキばかりをチョイスして持ってくるわたしが更に加わる。
いや、実際家に帰って正露丸を飲む羽目になるんだけどさ。
でも、この次の奴が問題なのよ…。
わたしの至福の時をぶっ壊した張本人なのよ…!
「早桜は何が好きなんだ?さっきから悶々としてるけど」
ケーキバイキングなんていう俗物には、およそ似合わない優雅な仕草でケーキを食する横の奴。
悪魔、もとい最低男綾。
ちなみに食べているのは、洋梨とバニラのムース。
花が咲いたように洋梨の敷き詰められたお洒落なものだ。
フルーツよりも、カスタードや生クリーム大好きな、子供趣味のわたしには、いささか無縁なケーキ。
選ぶものまで洒落てるところが、また気に食わない。
しかも、本当に美味しそうに食べるもんだから、気取ってるわけじゃないって分かっちゃうんだもん。
これじゃ、文句もつけられやしない。
「……苺ショート」
仕方ないから、ぼそっと答えると一瞬間を置いて、綾が口を押さえてうずくまった。
「ど、どうしたの!?綾君?」
心配そうに恵ちゃんが、声を上げる隣で、わたしは白い目を綾に向けた。
…肩が小刻みに震えてる。
悪かったわね、顔だけじゃなくて趣味まで子供っぽくて!
「…早桜!ケーキ取りに行こうぜ」
ガタンと椅子を激しく引いて、夏己が苛々と言った。ありゃりゃ。
恵ちゃんが綾に構うのが気に入らないみたいね。
わたしもなるべく綾から離れておきたいし、夏己についていくことにした。
「あのさ、相沢って何者なわけ?」
テーブルから離れると、すかさず夏己がぶすっとした声で聞いてきた。
珍しく眉を曲げちゃって。
「んー。詳しくはわたしも知らないんだけど、母さんの妹さんの息子らしいよ」
「じゃあ、早桜の従兄弟なんだ?」
「そういえばそうね」
わたしが頷くと、夏己は複雑な顔をして唸った。
「同じ血を持ってるくせに、早桜とはえらい違いだな。見た目も、性格も」
性格は似てるって言われたら嫌だけど、見た目は似てないって言われると、ちょっと虚しくなるよね。
確かに、お世辞にも似てるとは言えないけどさ。
「っていうか、早桜あいつと仲悪いのか?」
「いいわけないでしょ、あんな最低男と」
ケーキをトングで引っ掴みながら、夏己を睨む。
「そ、そうだよな…」
指に付いたクリームを舐めながら、夏己が何度か頷いた。
「…なんでもいいけどさ、お前今日元気ないだろ。ケーキもあんま食べてねぇし…」
「夏己…」
「恵が心配するだろ」
さすが十年来の幼なじみ。
よく分かってるじゃない、と感激しかけたわたしだけど、夏己の言葉に肩を落とす。
結局色気か。
こんちくしょう。
「いっ、いででででっ!何するんだ!離せっ!早桜~っ!」
ムカついたから、トングで夏己の耳を思いっきり引っ張ってやる(注:よい子の皆さんは真似しないでください)。
ふんっ!
どいつもこいつも、イギリス人もっ!
わたしの心配を純粋にしてくれる人はいないのかっ?
「も~っ!もういいっ!今日は自棄食いなんだからぁっ!!!」
「そ、その意気だ!早桜!頑張れ、元を取れ!」
「よっしゃ!やってやるぅ~っ!」
「…で?」
にやにやと、悪魔が笑っている。
もう恵ちゃんと夏己の前で猫を被るのはやめたらしい。
本性ばれたところで、恵ちゃんはそういうの人に広めるタイプじゃないし、夏己は何か怯えてるし…。
「食べきれないから…食べて」
「下さいは?」
「…っ食べて下さいっ!」屈辱っ!
この最低男にお願いすることになるなんてっ!
テーブルの上には、レアチーズケーキに、ショコラケーキ、ミルクレープ、プリンショート………その他諸々。
先程の勢いで、手当たり次第にケーキを掴み取ってきたわたし。
元からそんなに大食いな方でもない。
計画なしに無茶取りして、食べきれるはずもなく、案の定半分程が残ってしまった。
頼みの綱の夏己も、自分の分だけでお腹いっぱいらしいし、恵ちゃんは持っての他だし。
残るは、悪魔男だけ。
とはいっても、綾は見た目からして細いし、普通のペースで普通に食べていた。
十個は軽く越すであろう、このわたし趣味のこってりケーキを食べきれるわけはない。
そうは思ったのだが、もう頼れるのはヤツしかいない。
ダメ元で言ってみたところ、冒頭に戻る。
わたしに屈辱の言葉を言わせた綾は、何のためらいもなくどんどんとケーキを口に運んでいった。
そのスピードといったら!
大食いの夏己すら、口を押さえて顔をしかめる程で…。
うえっ。
すーごい食べっぷり…。
あれよあれよという間に、テーブルに広がっていたケーキ達は、跡形もなく綾の腹の中に消えていった。
「あんたって…痩せの大食らいなのね…」
「…普通だろ、これ位」
けろりとして表情で言う綾。
まぁ、一応感謝はするけどさ。
こいつの胃袋、一体どうなってんの・・・?
「ていうかさ、なんであんたついてきたの?ケーキ好きなの?」
帰り道、単純な疑問を口にしてみた。
夕焼けに染まる綾の横顔は、ちょっとどきっとするくらい綺麗だったけど、勿論それは気取られないように。
一瞬、きょとんとした綾だったけど、間をおいて、にまぁっと笑った。
な、なにその顔・・・。
「んー、新しく友達作んの面倒だから、手っ取り早く早桜のグループに入れてもらおうと思って」
「・・・は?」
「明日は遠足の班決めだったっけ、早桜」
ま、まさか・・・。
「遠足でもついてくる気・・・?」
「一ノ瀬さん(恵ちゃん)も、神楽(夏己)も、快く入れてくれるだろうな~」
「最っ低~~~!!!」
「楽しみだな、遠足」
「どこまでわたしを苛めれば、気が済むのよおぉぉぉっ!!!」
あおーん、とどこかで犬の遠吠えが聞こえた気がした・・・。
ちなみに、今日のデザートには苺ショートが出た。
綾は、なんの躊躇もなく、美味しそうに頬張っていた。
・・・うえ。
ううう。
熱は下がったのに、あと二日は自宅にいなきゃいけません・・・。
暇です~っ!
学校行きたいよぉ。
暇ついでに、朝から更新しちゃいました。
裏タイトル「底なし胃袋 あーや」
す、すごいですよね。
こんな友達、実は私持ってます。
お昼ごはんにお弁当食べて、それから購買でパン買って、さらにその後ジュース二杯飲んで・・・みたいな。
私は、見てるだけで吐き気がします。
ものすごい食べっぷりですもん。
しかも、その子超やせてるんですよ!?
帰宅部のくせに・・・。
まぁ、それは置いときまして。
次は学校ネタにするか、遠足ネタにするか、今考え中です。
明日までにリクエストが一件でもあったら、そっちにするので、是非一票をお願いしまーす。
それでは、これからもどうぞよろしくおねがいします。
瑞夏