step4 理解不能な運命
「早~桜~っ!いい加減出てこいよ!」
戸を叩く音と共に、朔の声がした。
「無理。…当分わたしはここから出ません」
「天岩戸かよ」
「ねぇ。綾ちゃんって、もしかしてあの男の後ろにいた?」
「んにゃ。あの美形のお兄さん」
「やっぱりいぃぃっ!?」「御愁傷様」
泣き崩れるわたしに、朔は一言。
「どうでもいいから、ほら母さん達待ってんだよ」
「嫌」
即答すると、舌打ちする音が聞こえた。
ガチャ、という音も。
ヤバい!
わたしの部屋に鍵はついてなかった!
「開けちゃ嫌~っ!」
慌ててドアに駆け寄るわたし。
必死でドアノブを押さえたけど、年は離れていてもそこはそれ。
力は圧倒的にわたしの方が弱い訳ですよ。
十秒も経たないうちに、ドアはあっさりと開き、その反動でわたしは部屋の隅までころんと転がった。
「きゃうっ」
おまけに、転がっている間になんかペンのキャップみたいなものが背中に刺さったみたい。
うう。
痛いし格好悪い…。
背中をさすりながら朔を見ると、彼は訝しげな視線をよこしていた。
「鈍くさ…」
にゃ、にゃにおう…?
姉に対して、言葉遣い悪いんだから、もう。
年上は敬うべき存在なのよー?
「飯、みんな早桜のこと待ってるんだけど?」
一人ぷんすかしているわたしをもう一度見てから、朔は階下を親指で指した。
「しっ、知らない!」
ふいっとそっぽを向くと、朔は大袈裟にため息をついて、ずかずかと大股で部屋に入ってきた。
「入ってこないでよ~っ」
「だったらドア閉めとけ」
「…朔が開けたんじゃないのー」
じっとり睨むわたしも、我関せずって感じで朔は遠慮なしに近づいてくる。
と、次の瞬間わたしの体は地面から離れていた。
「ぎゃわああぁっ!」
ひょいっと朔はわたしを抱き上げ、無言で部屋を出た。
奇声を発するわたしも無視して、朔は階段を降りていく。
しかも、これがまだお姫様抱っことかならいいのに、荷物担ぐみたいに肩に担がれてるんだもん。
色気も夢もないっつの。
「あーあ、めんどくせ」
その上この言い草っ。
わたしは頼んでませんから!
「早桜連れてきたー」
リビングに向かって、朔は呼び掛ける。
運んできたの間違いでしょ?
そう言ってやろうかと思ったけど、落とされたらたまんないから、口をつぐんだ。
口は災いの素、だかんね。
「もう、遅いわよ。早桜」
ぼてっ、と床に落とされたわたしに母さんはまず一言。
声、一オクターブ上がってますけど?
おまけに、なんか目がハートマークだし、唇にはグロスまで塗っちゃってる。
母さんったら。
『打倒・綾!』の心意気はどこにいったのー?
今こそあの意気で、追っ払っちゃってよー…。
くそぅ、男だと分かった途端態度変えちゃってぇ!
「綾君、紹介するわ。この床にはいつくばってるのが、長女の早桜よ」
はいつくばってるのが…って、そりゃないでしょ。
「ほら早桜も挨拶なさい」
にっこりと母さんに急かされ、わたしはのろのろと立ち上がった。
スカートに着いた埃を払ってから、ぶすっと言う。
「早桜です。…どうもよろしくお願いします」
ふんっ、だ。
よろしくする気なんて、これっぽっちも無いんだからね!
感じ悪く目を逸らすわたしを、母さんがこらっと小声で叱った。
知るもんか。
そう思って尚更顔を背けたわたしなんだけど、不意に聞こえたガタンという音につられて、つい視線を向けてしまった。
ガタンという音が、椅子を引いた音なんだと気付いたのは、立ち上がってる少年を見てから。
その少年は、人好きする笑顔で笑いかけると、わたしに手を差し出した。
「相沢綾です。よろしく」
「…へ。ああ…」
しばらく、ぽかんとしてしまったわたしだけど、差し出された手が握手を促すように一層伸びてきたから、条件反射で掴んでしまった。
「早桜ったら、ズルいわ。綾君と握手するなんて」
母さんが本気で羨ましそうに声を上げた。
おいおい。
父さんの立場がないだろう…?
綾…君は二、三度繋いだ手を振るとまたにっこりして、離れた。
不覚にも、ちょっとドキドキしてしまった。
いや、騙されては駄目よ、早桜。
あのコンビニでの出来事を思い出すのよっ!
目の前で繰り広げられる談笑の輪から、わたしだけは外れていた。
時々、朔がわたしにも話題を振ってくれるんだけど、イマイチ乗り気になれなくて、空返事。
わたしが気になってるのは、話の内容じゃなくて、綾…君の本性なのよ。
じーっと睨むように見つめていると、たまに目が合ったりする。
その度に毎回あのキラースマイルを向けられてしまう。
わたしもつられて、へらりと笑っちゃうし…。
それはそうと、顔合わせパーティーが始まって、早二時間。
ここまでずっと綾…君を観察してきたんだけど、おかしい。
話もおもしろい。
気も利く。
つねに敬語。
話題は豊富。
顔はもっての他。
そう、朝の失礼さの欠片もないのよっ!!!
いっつもにこにこしてるし、人懐こいし。
あの少年から、あんな毒が吐き出されたなんて、信じられないくらい。
…もしかして、人違いだったのかな。
だとしたら、悪いことしたかも。
一度そう思い出してしまうと、もう自己嫌悪の無限ループ。
頭の中は謝罪の言葉でいっぱいなんだけど、口に出せない。
「…ごめん。もう寝るね」
そう言うのが精一杯で、怪訝そうな顔をする家族と綾君に、笑顔を見せてから階段を登った。
ごめんね、綾君…。
んん。
今晩も熱帯夜だなー。
寝苦しくて目が覚めちゃったよ。
何度うったか分からない寝返りを、もう一度うって、わたしは体を起こした。
無理。
寝れない。
しぱしぱと目を数回瞬かせて、わたしは隣の部屋で寝てる朔を起こさないように、そっとドアを開けた。
水でも飲めば、ちょっとは寝やすくなるかもしれないからね。
便利なことに、ウチには冷蔵庫が一階と二階にそれぞれ置いてある。
足音を立てないように廊下を歩いていると、冷蔵庫の所ら辺に、小さく明かりが点いてるのが見えてきた。
…?
朔かな?
そっと忍び寄っていく。
仄かなランプの灯りに照らされ浮かび上がっていたのは、端正な顔立ちの少年だった。
およそ朔とは比べものにならない。
となると…。
「綾君…?」
控えめに、声を掛けてみた。
「あ」
一拍遅れて、声がした。
透き通ったアルトの声は、やっぱり綾君のものだった。
「綾君も水飲みに来たの?今日も暑いもんね」
「…まあね」
綾君の返事を聞いた瞬間、ふと嫌な予感が胸をよぎった。
ちょ、ちょっと待って。
この響きには覚えがあるぞ。
にやり、と端正な顔立ちの口角が上がった。
…気がした。
「さっきはずいぶんなご挨拶だったな。馬鹿女」
ぴしり。
顔が半壊する。
「あ、あんた…」
「もう忘れたの?人柄だけじゃなくて、おつむの方も馬鹿なんだね」
顔が、歪んだ。
なにが勘違いよ。
なにがごめんねよ。
やっぱり、やっぱりこいつは…!
「あの最低最悪男じゃないのおぉぉっ!!!」
お久しぶりです。
ここ何日間か、インフルでぶっ倒れてました。
なので、更新遅れちゃいましたね。
申し訳ないです。
熱は下がったんですけど、二日間は自宅待機です・・・。
早く学校行きたいです・・・。
話変わって、待っててくれていた方に朗報です!
ベッドの中でこっそりと話を書いてたので、二話同時に更新しちゃいます!
遅れを取り戻せるといいんですけど・・・。
それでは、運命シリーズ、これからもよろしくおねがいしますね。
瑞夏