step2 ありがちな運命
朝から、母さんは不機嫌だった。
勿論、その理由は言わずもがな翠さんの手紙。
あ、ちなみに言わずもがなっていうのは、言わなくても分かるだろうけどって意味。
朔に教えてもらったんだけどさ。
翠さんの手紙を読むが否や、母さんはきぃっと奇声を上げてそれをびりびりと破いてしまった。
おかげで手紙は見るも無残な紙ふぶき状態。
ふんっと母さんは鼻を鳴らしながら、とことん苛めてやるからな!
などと不穏なことをぶつぶつ言っている。
ああ、哀れな綾ちゃん・・・。
わたしが守ってあげるからね。
「ふわぁ。・・・はよ、早桜。・・・なにしてんだ?」
無意識にガッツポーズをしていたわたしを、朔はいけないものでも見てしまったかのような、渋い顔つきをして見ると、遠慮がちに尋ねてきた。
その顔には、戸惑いと共に眠気の色に浮いている。
さすが寝起き。
そんな朔の頭には、THE・寝癖とでも呼びたくなるほどに、こげ茶色の髪が立っていた。
ぷ、ぷぷ・・・。
悪いと思いながらも、やっぱり笑ってしまう。
「な、なんだよ。気味の悪い奴だな」
あからさまに顔をしかめて朔。
わたしは返事の代わりに彼の頭を指差してやった。
「あ?」
眉を八の字にして、朔は自分の頭上に手をかざした。
もさり、と髪がへこむ。
「ぶっ。ぶふっ」
その光景すらなんだか可笑しくて、わたしは口元を押さえた。
途端に朔は、ぎろりとわたしを睨んできたけど、気にしない。
ふーんだ。
昨日のお返しだもんねーだ。
それに・・・。
「そぉーんな頭で睨まれても怖くなんかないもんね!」
「はいはい。分かりましたーっと」
・・・あり?
予想外の反応。
一言返すと、朔はぺたぺたと足音を立てながら、行ってしまった。
欠伸をしながら。
「いーい?早桜、あんたも協力してね!あんの、くそ翠の娘なんか、とっとと追い出してしまいましょう!」
拍子抜けしているわたしに、母さんはやる気満々に言ってきたけど、なんだか面倒なことになりそうだったから、考えとく、と小さく言う。
第一、わたしの親友候補の綾ちゃんを追い出す作戦に、なしてわたしが協力せねばいかんのですか。
「・・・母さん、牛乳切れてんだけど」
不意に、朔が冷蔵庫を覗きながら言った。
「あらぁ、そうだったかしらぁ?」
「「・・・」」
くりんと、目を丸くしてあさっての方向を見る母さんを、わたしと朔は無言で見た。
「困ったわねぇ。今日の朝ごはんパンなのよ。でも、母さんは昨日のお冷やのお米があるから、牛乳いらないわねぇ。・・・必要な人が買いに行ってくれる?」
いやに饒舌ですね。
確信犯だな、こりゃ。
はぁ。
わたしはため息をひとつついてから、朔と目を合わせた。
困った母さんだ。
「いっせーの」
朔の声にあわせて、グーを出す。
ま、いわば「じゃんけんぽん」の省略形なの。
朔の出したのは、手を完全に開いた形・・・パー。
認めたくないけどー。
「はい、早桜の負けな。行ってらっしゃーい」
ひらひらと朔が手を振る。
いつのまにか、わたしの手には五百円玉が握らされていた。
名残惜しげに、右手のグーを見つめてから、わたしは重い腰を上げた。
仕方ない、行くとしますか。
出て行く寸前
「気をつけてねー」
という母さんの呑気な声に多少なりとも腹が立ったのは、仕方ないよね?
わたしの家から、コンビにまでは徒歩五分。
ちょっとお気に入りの歌を一曲聴いてたら着いちゃうような距離。
ま、面倒くさいのに変わりは無いんだけどね。
一番安い低脂肪乳を手にとって、わたしは店内を見回した。
つい、お菓子コーナーに目が行ってしまう。
もらったお金は五百円。
低脂肪乳は、百十二円。
五百-百十二=三百八十八円。
どうしよっかな~。
勿論、迷った時間なんてほんの数秒。
そそくさとお菓子コーナーに移動して、美味しそうなものを探す。
ふふん。
これがお使い者の特権だもんね。
目に付いたのは、ピンクと白のパッケージの新発売キャンディ。
『ラブリーポップ』
キャッチコピーは甘酸っぱい恋の味。
ちなみに姉妹商品にはじける青春の味『サイダーポップ』と、つながる友情の味『フレンドポップ』があるらしい。
はじける青春の味は、まあ分からないでもないけど、つながる友情の味って・・・。
どっかの携帯会社のCMじゃないんだからさ。
それでも、恋の味、というのは気になる。
苺ピーチ味なんだって。
安易に苺ミルクとかじゃないところが、またいいよね。
ふむ。
・・・これにするか!
残り少ないそれを低脂肪乳と共に持って、いそいそとレジに向かう。
朝早くからバイトのお兄さんは、眠そうにカウンターに立っている。
「二百八十二円になりまーす」
これまた眠そうな声でぼそり。
んもう、辛気臭いなぁ。
そんなことを思いながら、上着のポケットに手を入れて、五百円玉を探す。
探す。
・・・探・・・す。
・・・・・・・・あ、あれえぇぇぇ!?
な、ないんですけど!
もう一度繰り返しますよ、ここ重要ですからね?
五百円玉が、な・い・ん・で・す・よ!!!
うわー、どうしよう!
お兄さんも、早くしろって顔でわたしを見てるし。
後ろに並んでる人も、苛立たしげに、足を踏み鳴らしてる。
うう、恥ずかしい・・・。
仕方ないよね、もっかい出直そう・・・。
「・・・すみません。これ・・・」
やっぱり返します。
その声は、ぱちんという小気味良い音に遮られた。
へ?
カウンターに乗せられた物が、五百円玉だということに気づいたのは、少し経ってから。
「これで」
快い、アルトの声が真横からした。
うわぁ、すっごい美声。
不謹慎にもそんなことをわたしは考えてしまった。
「・・・はい。かしこまりました」
んんん、今の声を聞いた後だと、より一層お兄さんの声が暗く聞こえるよね。
なんて思っていたわたしに、レジ袋が手渡された。
中には、ちゃんと低脂肪乳とあの飴が。
はっとして横を見ると、美声の持ち主がいない!
わたし、まだお礼言ってないよ。
慌ててわたしは、駆け出す。
スカートのポケットから五百円が落ちたことには気づかなかった。
「ま、待ってくださぁい!」
自動ドアのすぐ向こうに、彼はいた。
わたしが叫ぶと、足を止めて、ゆっくりと振り返る。
思わず、見とれてしまった。
揺れる黒髪、切れ長の瞳、面長の顔。
多分、年はわたしと変わらないと思う。
すごく・・・かっこよかった。
「・・・なに?」
また、あのアルトの声で彼は言った。
その声に、わたしは我に返る。
あ、危ない・・・!
追いかけた目的を忘れるところだった。
「あの、ありがとうございました」
ぺこりと、頭を下げる。
「ああ。超邪魔だったから」
「へ?」
聞き返してしまった。
「ああいうの。すっごく迷惑なんだよね。ったく、おっちょこちょいが可愛いで通るのは、十代までだから。勘違いするなよ、馬鹿女」
・・・は?
ちょ、ちょっと待って。
「あ。それとあのお金、あげたわけじゃないから」
「な、なにそれ・・・」
やっと言葉が出たわたしに彼は皮肉っぽく笑ってこう言った。
「哀れな馬鹿女に、恵んでやったんだ」
すたすたと、わたしに構わず背を向けて歩いていく。
な、な、な・・・!
「なんですってえぇぇぇっ!!!」
もうあのアルトの声は、悪魔の声にしか聞こえなかった。
すごい!
脅威のスピードで書けちゃいました!
びっくりです!
運命シリーズ第二話です。
母さんのキャラが上手くつかめません・・・。
早桜ちゃんは、おっちょこちょいですね(そのまんまじゃん)。
私にちょこっと似てる気も・・・?
あ、でも私流石にこんなことは、なったことないですよ!?
これは、ちょっとね・・・。
ていうか、この少年感じ悪すぎませんか!?
え?
どうせこいつが・・・ああっ!
言っちゃだめですよ!
そういうのは、あとの楽しみなんです!
それでは、運命シリーズ、楽しんでもらえたら幸いです。
感想是非ください!
死ぬほど喜んじゃいます!
瑞夏