step10 謎解きは怒りを招く運命
「ねえ、あの子だろ?」
「そうそう。琴ちゃんを泣かせたんだろ」
「なんだっけ、立花・・・早桜?」
ひそひそ・・・。
ひそひそとぉ・・・っ!
「鬱陶しいのよ!!!」
がっしゃん。
すでに空になっていた弁当箱が、ちゃぶ台よろしくひっくり返った。
食べるのがゆっくりな恵ちゃんは、さりげなく自分のサンドウィッチ入りバスケットを持ち上げ、回避する。
ちなみに、サンドウィッチはミルクワカメ味と味噌カスタード味らしい。
うーん、独創的。
嬉々として勧められたけど、丁重にお断りさせていただきました。
夏己はというと、幼馴染のくせに、わたしの行動を察知できなかったらしい。
素晴らしく美味しそうな弁当(夏己お手製)は、わたしの星一徹攻撃に遭い、哀れにも遠く彼方に飛んでいってしまった。
「ああああ~っ!早桜!何するんだよ!」
悲痛な声をあげながら、夏己は中見ぐちゃぐちゃのお弁当を拾いに駆けていった。
「夏己君たら、駄目ねぇ。危機回避能力に欠けてるわー」
恵ちゃんは、サンドウィッチを頬張りながら、無神経な言葉を放つ。
ふんわりとした笑みが、余計に黒く見えてしまう。
お弁当投げられた挙句、想い人にこんなこと言われちゃって、不憫もこの上ないわね!
多分、恵ちゃんのことに関してだけは、妙に五感が鋭くなる夏己のことだから、今の言葉も当然聞こえたんでしょうね。
・・・なんて冷静に解説してるわたしが、一番の夏己の不幸の原因なんだけどね。
たはは。
「にしても、陰湿な嫌がらせね。その・・・とん・ちん・かん・・・だったっけ?」
「・・・優・舞・琴」
どこのお坊さんの名前ですか、それは。
「そうそう、その・・・。・・・・・・あれ?」
「・・・・・・優・舞・琴」
「もーっ、ややこしい名前ね!」
いや、かなり覚えやすいと思いますけど。
ぷんぷんっ、と今時誰も言わないような怒りの擬音語を口にしながら、恵ちゃんは頬を膨らませた。
余談だが、恵ちゃんの理科の暗記テストの点数は、百点満点の三点だ。
しかも、三点は先生からのお情けという・・・。
つまり、恵ちゃんの暗記力に期待してはいけないのだ。
うん。
「まあいいや。その三人組、明らかに計画犯ね」
恵ちゃんは、シャーロックホームズよろしく立ち上がると、恭しく説明を始めた。
「そうね。はじめから美少女がボールに突っ込むことは決まっていたのよ」
「ほう」
「それと、後で見てみたら?美少女の顔には傷ひとつないはずだから」
恵ちゃんは、きっぱりと言い切った。
「それ、どういうことだ?」
いつのまにか恵ちゃんの推理に聞き入っていたらしく、夏己が茶々を入れてきた。
「当たり前でしょ?そんないじめのために、ご自慢のお顔に傷なんてつけるはず無いじゃない」
「でもさ、ズシャーっていったんだろ?」
夏己は食い下がる。
横でわたしは頷いた。
うんうん。
あれは痛そうな音だった。
「馬鹿ねぇ。あんなのいくらでも出せるわよー?」
言うが早いか、恵ちゃんは地面に倒れた。
ズシャーっ、と。
「恵ちゃん!?」
「恵っ!」
わたしの声と、夏己の叫びが重なる。
しかし、次の瞬間恵ちゃんは、わたし達の心配をよそに平然と起き上がったのである。
「ま、ざっとこんなものよ」
白い歯を見せて、爽やかに笑う恵ちゃんの顔には、擦り傷ひとつ見当たらない。
「体が地面に当たって音が出るんじゃなくて、服が擦れて音がするのよ」
自慢げに恵ちゃんは親指を立てて見せた。
そ、そういうものなんだー。
すっかりだまされた。
「分かった?だから、美少女の顔に怪我は無いわけよ」
「「なるほどー」」
う。
ハモってしまった。
「次に、美少女は嘘泣きをする。同情心を煽る為にね」
「嘘泣き・・・」
「そして、友人登場。わざと大声を出して、ギャラリーを集める役目も果たしているわ」
「はあ・・・」
「と、こんなところね」
一通り解説を終えた恵ちゃんが、手を叩いた。
いつに無く、輝いて見えます・・・!
思わず尊敬の念を送ってしまったわたしを、恵ちゃんは怪訝そうな表情で見つめてから、それから、と付け加えた。
「肝心なのは動機よ」
「動機?」
「そ。考えられるのはかなり絞られるけどね」
ほう、と恵ちゃんはため息をつく。
「1、早桜のことが気に入らない。2、特に理由の無い快楽犯。3、これが一番有力だけどね。・・・綾君のことが好き」
ご丁寧に指折り数えながら恵ちゃんは呟いた。
ごくり、と唾を飲む。
「綾が・・・原因・・・」
「確定は出来ないけどね」
ふつふつと、言い様の無いなにかが込み上げてきた。
「さ、早桜・・・?」
恐る恐る、夏己がわたしの名前を呼んだ。
「そう。綾が原因・・・ね」
「恵!逃げ・・・!ぎゃああああっ!?」
ガショーン!!!
夏己の素敵弁当は宙に舞い踊った。
ちーん。
こんばんわ。
椎名です。
運命シリーズを書くのは、ちょっとお久しぶりですね。
今回は、あーや名前だけしか出てきません。
何をしてるかは、置いときまして・・・。
もう、夏己君好きすぎです!
あのヘタレっぷりがいい!
あれは、将来尻にしかれちゃうタイプですね。
恵ちゃんは振り向いてくれるのでしょうか!?
しかも、お弁当男子ですよ。
次は、しっかりあーやも出そうと思います。
まだまだ、遠足編続きそうです。
近況報告ですが、少し前に運命シリーズの番外編アップしました。
RPG風です。
基本、恵ちゃんのキャラが壊れちゃってます。
夏己ヘたれちゃってます。
まだ、読んでない方がいらしましたら、ぜひ読んで欲しいなー、なんて。
感想お待ちしております。
それでは。
瑞夏