step1 運命の手紙
拝啓 立花遥様
夕方届いた、母さん宛の一枚の封筒。
薄桃色のそれには、黄色の小さな花がたくさん散っていてすごく可愛らしい。
でも母さんは、その封筒を見た途端、ぎょっとしたような顔をして、それから深いため息をついた。
「翠ね・・・」
「翠って?」
ため息と共に吐き出された言葉を、思わず反復する。
「あたしの妹。相沢翠。旧姓増永翠」
ご丁寧に旧姓までつけて言ってから、母さんは額を押さえた。
そのままふらふらとした足取りで、寝室のある二階へ上がろうとする。
今度は何の迷惑掛ける気?なんてぶつぶつ言いながら。
「ちょ、ちょっと。中見見ていかないの?」
あわてて服の裾を掴んでわたし。
けだるそうに母さんはちらりとわたしを見てから、力なく笑った。
「見たかったら見てもいいわよ。・・・どーせろくな用事じゃないから」
め、目が遠い・・・。
そんな母さんを更に引き止めるほど野暮な奴ではない。
ぱ、と裾を離してわたしは代わりに封筒を手に取った。
裏返してみると、なるほど確かに相沢翠と書いてある。
口はきっちりと糊で貼ってあって、手で引きちぎっても良かったんだけど、何となくわたしははさみを使って、丁寧に端を切った。
勿論、深い意味なんてなくて。
それでも、そうしなきゃいけない気がしたんだ。
「早桜?なにやってんの」
封筒の中から手紙を引っ張り出したところで、不意に朔海の声がした。
通称、朔。
わたしの愛すべき弟だ。
四つも年下なんだけど、わたしの父さん譲りな童顔と、朔の母さん譲りな老け顔の所為で、双子に間違えられることもしばしば。
それでも、背はわたしの方がちょこっと高い。
ちなみに、近所でも仲良し姉弟って有名なんだよ。
「んー。母さんの妹さんからの手紙だよ」
「妹?そんなのいたんだ。で、なんて?」
首の横から、手紙を取ろうと手が伸びてきたから、わたしは仰け反って手紙を守る。
「貸せよ」
「読んであげるからー」
そう言いながら、わたしは不満げな朔のために手紙を声に出して読み始めた。
「えー、おほん。なになに?・・・風薫る季節となりました。姉さんにはいかがお過ごしでしょうか?私は元気です。さて、今日は・・・」
『さて、今日は親愛なる姉上にお願いがあって手紙を送りました。
ところで、私に子供がいるのはご存知ですか?
名前は相沢綾、早桜ちゃんと同い年です。
その綾なんですが、しばらくの間預かってもらいたいんです。
事情は綾から直接聞いてください。
迷惑を掛けてすみません。
翠
追伸:この手紙の届く次の日には綾がそちらに着くと思います』
読み終わると同時に、わたしと朔は顔を見合わせた。
「ってことはさ、明日にはその綾って子が家に来るってこと?」
「・・・みたいだな」
あや、アヤ、綾。
AYA。
脳内で、まだ見ぬ綾のイメージが急速に膨らんでいく。
わたしとは対照的に、真っ黒で少しウェーブがかった長い髪。
おっとりとしたたれ目の美少女。
話し方は、勿論標準語で。
笑うとえくぼのできる愛らしい子でー、わたしのことを桜さんって呼ぶの。
休みの日にはショッピング?
お揃いの可愛いマスコットなんて買っちゃって・・・。
「・・・早桜」
夜はおんなじベットで恋ばな。
綾は真っ赤になって話すの。
どっちかが失恋したら、朝まで慰めパーティ。
どっちかが両思いになったら、朝までお祝いパーティ。
「早桜」
結婚式は同じ日に、同じ場所で一緒に挙げるの。
ブーケは二人で交換して、綺麗だねって言い合っちゃうの。
「早桜っ!」
「はうっ!?」
出来た子供同士が結婚して、ってところで朔が急に叫んだ。
び、びっくりするなぁ、もう。
憮然とした表情でわたしを見る。
「はい、妄想しゅーりょー」
「妄想じゃなくて未来予想だもん!」
「どっちもあんま変わらないから」
わたしの抗議も軽くあしらって、朔はでこピンしてきた。
こつんと、軽い音。
「いったぁぁ」
「大して痛くも無いくせに」
「・・・」
全くその通り。
そんな冷静に返されちゃうと、蹲っちゃってるわたしがお馬鹿さんみたいじゃないか。
ぷくっと頬を膨らませると、朔が吹き出した。
「変な顔!もともと丸い顔が風船みたいになってるぞ!」
「し、失礼な!」
くっくと笑う朔の旋毛にチョップをくらわせて、わたしはきびすを返す。
あーあ、幸せな気分が朔の所為で興ざめ。
もう寝よっと。
「あ、どこ行くんだよ」
朔の問いには答えずに、わたしは階段を上がった。
「え~。南花菱町行きの夜行電車、まもなく発着しまーす」
やる気のないアナウンスの声。
それに導かれるようにして、黒髪の少年は乗車口に足を動かした。
艶やかな黒髪は、かたにも届かないくらい短い。
どうやら、桜の予想は外れたようだ。
えーと、ほぼ二作品同時連載です・・・。
ああっ。
なんて無謀なのでしょうか。
でも、どうしてもこの話も書きたかったんです・・・。
ファンタジーと普通の恋愛小説。
かなり極端ですね。
話は変わって、ずばり!
この話のコンセプトは王道!です!!!
ですからして、誰でも一度は目にしたことのあるようなストーリー展開になると思いますが、それだけに登場人物の心の動きだとかなんだとかを、できるだけ繊細に。
かつ大胆斬新な動きのある、読んでくださった皆様が思わずにっこりしてしまうような、そんな作品にしていきたいと思います。
笑いあり、涙あり(?)の「運命なんて、始まらない」をどうかよろしくお願いします!
そして、できれば感想送ってください!
涙が出るほど感激すると思います!
瑞夏