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夏の憂鬱  作者: 碧 里実
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追憶の欠片

彼の居る病室に入ると、起き上がった彼が此方に目線を向けている。



仲間から安堵の声をかけられる彼を見ながら思いの外、顔色も良く普段と変わらない姿がそこに在った。



そんな周囲を余所に外れた所で見ている私に皆の目からほんの一瞬、彼が視線を目配せたのに気付く。



けれど直ぐ皆の和に戻り話しながら彼から少し二人にしてもらえるかと、声をかけられた皆が私に気付いて、そうだった、悪いなどと言いながら先に帰ると告げ病室を出て行く。



そんな彼等の後を付いて見送ろうとする私に、良いからと言わんばかりに手で制され、その代わりに彼の荷物を渡された。



悪いと、背後から皆にかける彼の声がやけに耳に響く。



またな、と言って仲間達は病院の出口へとぞろぞろ歩き出した。



ほんのさっきまでの賑やかだったこの場所が、途端にうって変わり静けさに染まり出す。



何をどう話して良いのか言葉を継げないさ迷う私に、彼の方から声がかかった。



「…心配かけてごめんな」



首を小刻みに横に振り、そんなこと無いと掠れ気味に応える私は俯いたまま、頑なに握っていた手の甲に落ちた滴りで意識が冴える。



自分でも知らず知らずに張り詰めていた気持ちが、やっと少し解れて行くのが分かった。



「…あと二、三日で退院するから」



と言って先に帰路に着くよう促す彼に、うん、分かったと返事をする。



話したいことがあった筈だった。



けれども今この状況で話す内容では無い事をお互いに良く、理解していた。



「…退院したら連絡する」



そう言って彼は立ち上がった私の手を引き寄せ、うん、待ってると告げて彼の居るこの病室を後にした。

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