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異世界では、漫画やら神話に出てくる、魔物やら魔王やらが存在しており、こちらの世界とは文明の進み具合がかなり遅れているようだった。
俺が飛ばされたのはそんな世界でも、町外れで人手不足の村だったのだが。
ここであのクソジジイ(神)がつけやがったチートが俺の自由を奪うことになる。
この村では、魔物を退治する冒険者とやらが数えられる数しかいない。
少しでも冒険者がほしい村。そこにチート能力を持った成人男性が現れるとどうなると思う?
わかりやすく説明する。ブラック企業をイメージしてほしい。
ブラック企業は人手不足で少しでも人材がほしい。
そんなときに、高学歴の若者が面接に来たらどうなる?その先は地獄だ。
どうだ?わかるか?村人に囲まれて「英雄だ!」の「神の遣い!」だの言われて強制的に冒険者にされて、世界中の魔物を退治させらる俺の気分を。
数ヵ月ぶりに村に帰ると村人達はお祭り騒ぎで歓迎してきた。
「英雄のお帰りだ!皆祝え!」
「「おぉおおおおお!!」」
コイツラは単に騒ぎたいだけだろう。
こっちはそんな元気はねぇんだよクソが。
すると鎧を着た金髪の少女がズカズカと俺の前に立ち、何故か期限が悪そうに言った。
「ふん!あんたなんか最近来たばかりの新参じゃない!あんまり調子に乗らないことね!」
「あ?テメェらが無能だから俺が尻拭いしたんだろうが。テメェのクソも処分できないザコがしゃしゃり出るんじゃねぇ。」
「な?!私だって!私なりに!」
顔を赤くして反論してくる女を無視して通り過ぎる。
相手をするだけ時間の無駄だ。
「ちょっと!まだ話は終わってない!」
しつこく付きまとってくる少女も、騒ぎ散らかす村人もすべて無視だ。
とにかくしんどい。少しでも早く静かな家で休みたい。
「ちょっと!聞いてるの?」
やっとの思いで家の前まで来るとそこには腰を曲げた爺さんの姿があった。
「村長!こんばんわ!」
少女は急におとなしくなり、爺さんに頭を下げた。
「老害が俺に何のようだ?」
「な!?あなた!村長に向って何言ってるの!」
「いいんじゃよ。わしはそれだけの事をした。」
爺さんは、老害と言われたのにも関わらず冷静だ。
「わかってんなら、仕事にあった金払いやがれ。なんだよ十万て。数ヵ月不眠不休で働いて十万で足りると思ってんのか?」
「それより、勇者クロムよ。」
「話そらすなクソジジイ。」
「お主に頼みたいことがある。」
「断る。」
「え?」
爺さんを通りすぎれば、やっと愛すべきマイホームだ。
「待たんかい!」
「嫌だ!」
「子供かお前は!大いなる力をお前さんは持っているんだ!その力は」
何か話していたがどうどめいいので家に入り鍵を閉めた。
「ただいま…」
俺以外誰もいないので返事はない。だがそれで良い。この静かで落ち着いた空間が、今の俺に取って理想的な世界だ。
「お!来た来た!どうじゃ?調子は。」
「あんたを殺せば最高だ。」
久々に来た白い空間。
そこには相変わらず神野郎がいて、白々しく笑っている。
「この数ヵ月で魔王を倒すとは!さすがわしが選んだだけはあるな!」
「酔った勢いでな。」
「いくらチートとはいえ、常人では真似できないだろう。」
「話しかけんな。」
「そこでお主に頼みがあるのだが。」
「息すんなボケ。」
「うちの部下が堕天して人間界で好き放題しているらしくてな。」
「生きてて恥ずかしくないのか?」
「この部下を連れ帰ってほしい。」
「テメェの役に立つくらいなら消滅を選ぶわボケ。」
「なぁに連れ帰ると言ってもただ瀕死にしてくれたらいいだけだ。」
「言葉通じねぇのか?一回死んだほうがいいんじゃねぇのか?」
「なぁ?さっきからなんでわし。こんなにディスられてるの?」
「テメェの胸に聴けよ。」
神は「まぁいい。頼んだぞ。」と言うと指を弾いた。
高い音が白い空間に鳴り響き、目が覚めると天使の顔が俺の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫ですか?」
なぜこうなったのか、寝起きのせいで曖昧たまが、だんだん思い出してきた。
あのあと俺はシャワーを浴びようとしてその場で寝てしまったんだ。
どうやら天使は、そんな俺をベットまで運んで膝枕をしてくれている。
長い耳に美しい顔立ち、胸は大きく、俺好みだ。
ここは天国か?
「……違うな。」
「え?」
思い出した。ここは天国なんてものではない。地獄だ。
今、俺に膝枕をしている女は冒険者ギルドの受付嬢。
つまり、俺にえげつない仕事を放り投げてきた張本人だ。
「どの面下げてきやがったんだ?つーか鍵はどうしたんだよ?締めだはたずだぞ。」
「窓が開いてたのでつい。」
とぼけた様に笑う長耳の女を窓から放り投げ、鍵を閉めてベットで眠ろうとした。
「女の子に乱暴してはいけませんよ!」
「なんでだよ?!」
長耳の女は玄関の鍵を開けて入ってきた。
この家の鍵は俺しか持っていないはずだ。
合鍵も作っていない。
「フフン。エルフは器用なんですよ!!」
こいつは鍵を自力で作ったのか?ストーカーかよ。
「あなたに意地でも頼みたい仕事があるんですよ。」
「嫌だ。」
「私達が出会って今日で4ヶ月ですね。」
「お前はたしか、二千年生きてんだよな?その割に言葉のキャッチボールも出来ないとか無能すぎないか?」
「4ヶ月前、ここは地獄でした。」
「俺からしたら今も地獄だけどな。」
「あなたがいなかったら私は今頃…」
「え?なに?回想で時間稼ぐきか?ふざけn」
◯
活気に満ち溢れ、笑顔がたえなった村は今、その影も形もなく、まるで地獄とかしていた。
何百万もの魔物が一斉に村を襲撃し、村人達は次々と虐殺されていく。
冒険者達は必死に応戦したが、余りの数の違いに圧倒されてしまった。
人々が絶望し、虐殺されていくなか、冒険者ギルドにも魔の手が及んだ。
複数のゴブリンがよだれを垂らし、笑いながらドアを破壊してこちらに迫ってくる。
私はせめて一矢報いようと、震える手でナイフを構えた。
実戦経験どころか訓練すらやっと事がない。
だが、このまま一方的に好き放題されるくらいなら戦って死んだ方がマシだ。
「ガァアアア!!」
ゴブリンが飛びかかる。
死を覚悟した次の瞬間、何者かがゴブリンの頭を鷲掴みにして、そのまま握りつぶした。
ゴブリンの潰れた頭からは、血が流れ、頭蓋骨の欠片や脳味噌であろう黄色い液体が垂れている。
「あなたは誰?」
男だった。
男はなぜか全裸で、何かに激怒して要る様子だ。
「あのジジイ(神)。マジで異世界に飛ばしやがって…今度あったら確実に殺してやる。」
男はこちらに見向きもせず、襲いかかってくる魔物たちを次々と殺しまわった。
ゴブリンの上半身を引裂き、オークの金○を切り落とし、ドラゴンの目を潰した。
その姿はまるで、鬼神そのものだ。
男の戦い方はあまりにも惨たらしく、長時間見ていると感情が麻痺しそうだ。
あっという間に、魔物達はぐちゃぐちゃの肉片へと姿を変えていく。
「あの人は英雄!……英雄?」
あれだけいた魔物達はあっという間に男一人で駆逐された。
最後に生き残ったゴブリンの頭を引きちぎると男はこちらに近づき「シャワー借りていいか?」と訪ねてきた。
返り血で真っ赤に染まった英雄に対して、私は「喜んで」と笑顔で答える。
このとき分かったのだ。
この二千年の時間の中、私は恋と言うものがわからないまま過ごしてきた。
だが、そんな私でもはっきりと分かることがある。
「私は貴方に惚れました!」
「あ?何言ってんだ尻軽女。」
口も今の姿も戦い方も汚い彼だが、本当は優しいと私は思う。
「なぁ?この世界は、殺しって重罪なのか?」
……優しいと信じたい。
「はい。死刑や決闘など例外は有りますが、基本には重罪です。」
「そうか……神殺しは?」
「…………」
◯
「あの時は驚きましたよ。」
あ