短編 少女はいつしか彼女になり、そして妻になった。 GA!
______女性は男子から見ると、いつも自分より一歩も二歩も大人に見える。
俺の場合、例えそれが年下であってもだ。貴殿も男なら覚えがあるだろう。
小学校5年生になっても、同級生の男子どもはまだまだ子供だったが、女子はなんとも大人に見えたものだ。
体形もそうだが、話している内容がそりゃもう俺たちガキな男子とは違う。
今なら流行のBBSとか韓流スターの話題だ。とにかくイケメンが中心だが、そこにどこそこのスイーツが美味いとかをブチ込んで来て、話題の中心は大抵、イケメンとスイーツのWコンボである。
「そんな事ないわよ」
ってこれをたまたま読んでいる貴女は文句を言いたいのだろうか?
いやいや、よ~く考えれば覚えがあるだろう。
「ねぇ、彼って素敵だと思わない?」
「私はあの人。目がとってもキュートなの!」
「私、だるま堂の二段重ねフルーツ大福、アレもう何個でも食べれちゃう」
「あぁ私もぉぉ! どうしよう。また太っちゃうぅぅ」
太る事がそれ程心配なら食わなきゃいいんだよ。それを敢えて食う。女って理解できんよ。
そう言えばあの子、当時から大福みたいな体形だったな。それにそのだるま堂のキャラクターそのものじゃないか。
今なら完全に三段くらいの立派な腹になっていると推測するよ。
どすこいぃぃ~ ごっつあんです。
しかし彼女らにとって同級生のガキ男子なんぞ、便所の蓋ぐらいにしか思っていない。今時、便所の蓋を知っている御仁はいないとは思うけど。
自慢じゃないが、俺なんかウォッシュレットのトイレをどう使うのか分らず、まず水タンクの方角に向かって座ったり、U字便座の上に跨ったりしたのが、ついこの前の事のようで懐かしい。
あなたもよ~く考えれば覚えがあるだろう。
その時、足元が見える形式のトイレだったので、無人だと思われていきなりドアを開けられたな。ロックしとけよって話だが今更だ。
バァーン
開けた向うも目ん玉をひん剥いていたが、俺は出そうなモノが引っ込みナニも縮み上がった。
その時、ガスだけが間抜けな音で出たのを今でも覚えている。俺の尻が。
ぷすぅ~
お前、昔から音だけは全く変わらんなぁ。
______ここで話を戻そう。そんな会話を耳にしながら、女ってなんでそんな話ばかりしてんだ?
俺はこれから帰ってレンタル・モンスター"レンモン"をニントンデーのウィッシュでやるんだが。
当然、男子たるもの宿題は後回しだ。すると母親に大目玉を食らうという公式がいつの世も完成しているのだ。
男性のあなたならよ~く考えれば覚えがあるだろう。同志諸君。
男子とゲームの話をしていると大抵、側の女子の視線が冷たかった。
「ふん、こどもねぇ」
「女は小学生でも偉大な大人だ」
GA!
俺は小学生の頃から女が苦手だ。あの勝ち誇った態度が気にいらんのだ。
そんな俺は中学生になると、いわゆる発情期が来た。
某有名アニメの無限列車は丘蒸気だが、まぁ俺も順調に? 大人の階段を登っていたよ。
兎に角初恋だよ。初恋はカルピズの味だよ。知らんだろうなぁ。
______ターゲットは隣のクラスの女の子だった。
小学生の時から女が苦手な俺は、結局思いを伝える事が出来ず、ロックオンを自力解除してそれで終わった。
女ってどう扱ったらいいのか知らんし、大体話が合わん。女子がセーラームンムンが好きなように、俺は仮面ライターだったしな。話の接点がない。こりゃ無理だと思った訳だ。
「仮面ライターはさ、変身する時にチャカッと頭が開いて、シュボッって着火させて変身するんだよ。エネルギーはズッポのオイルでさぁ......」
こんな話、デートで出来るか? こんなの喫茶店で即バイだろ。当然支払いは残されたドーテ―の俺になり、手にした白いレシートだけが空しい。
そんなもんクシャ、ポイだ。
______そして俺は目出度く高校3年生になった。
ずっと彼女は作らない主義だから、告白なんぞに縁はない。
そんな俺の下駄箱に、ある朝一通の粕入り茶封筒が!
「なんじゃこりゃぁ! 督促状かぁ?」
そんな訳はない。俺は学生だから税金の督促は来ないのだ。
ひょっとしてコレが伝説の秘奥義、絶滅危惧種の俺には縁もゆかりもない筈の恋文だと言うのか! 茶封筒だったが。
興奮したね、流石にあの時は。
「拝啓 富岡君」
おっ、流石だ。出だしが大人だよ。
中略
後略
「あなかしこ あなかしこ」
浄土真宗か?
短文でも奥が深い恋文の最後には、差出人の名前があった。筆文字である。
<浅岡麗美>
浅岡? テニスコートの前を俺が通る時、白いパンツを見せながら尻を振っている3年B組の女子、その浅岡麗美だった。
俺は3Dでクラスが離れていたからな、あまり近くで出会う事がなかった女子だ。
俺は帰り際に、テニスコートでそんな浅岡をよく見かけたが、それにしても浅岡は長い髪をポニーに束ねた超美人でスタイルも良かった。
将来グラビアモデルかアイドルになってもおかしくはない。
「GoGo あさおかぁ~!」
コートの柵には、大勢男子生徒のギャラリーがいたものだ。
GA!
全校男子に人気がある浅岡が俺を? 解せん! UFO、ネッシーより解せん!
浅岡! お前はとうに狂うていたのか!
これコミックのセリフにあったな。
浅岡麗美さん、君は大いなる誤解に気づいていないようだね。俺にどんな妄想を抱いたのかは知らんが、俺はあんたが思うような漢じゃないぜよ。
まぁ身長は180㎝で体重68kg、マッチョじゃないし顔は俳優の吉沢程度だよ。しかもオカルトにどっぷり嵌まり込んで、毎夜ベランダでベントラしてんだ。浅岡君、君はもっと人を観察するべきだな。
*(ベントラとは、UFOを呼び出す秘密結社の言葉だ)
俺は浅岡さん、あんたの事はテニスコートで白いパンツ見せて踊ってる奴ぐらいにしか知らんのだ。これでお互いの接点があると思うてか?
GA!
俺は暫く茶封筒の恋文の事は無視していたが、なんと無視したのが癪にさわったんだろう、週一で恋文が下駄箱にあった。それでも無視を続けると、それが三日に一度、更に毎日に変わったのだ。ご丁寧に文面は最初のコピーだった。
何枚コピーしたんだよ。
変わったのはそればかりでは無い。
スコーン スパーンとボールを撃ち返す音が聞こえて来る放課後。
俺が帰り際にテニスコートの前を通り過ぎると、浅岡さんのレーザービームの視線と、更に過激に白いパンツを見せつけて来るのだ。それも自然に。超ナチュラルにだぞ。
俺が通ると時、落ちてたボールを拾って、そのボールずっとそこにあっただろう。
役者よのう。
その度に男子ギャラリーから、ドスの効いた歓声がオウオウと上がっていた。中には額に"麗美命"と書いたハチマキをしている奴も居た。
青春男子生徒をそんなに焚きつけて、浅岡さんも罪な奴......。
おや? 良く見ると男性教師たちも混じっておったな。
「おい、校長に教頭!」
ふたり揃って頭に太陽光線がダイレクト・アタックだ。ふっ、眩しいぜ。
GA!
俺は肉食浅岡さんに狙われた哀れな小鹿。
メェ~ それヤギだろ。
なんだかんだで、俺は浅岡さんに押しに押されて、ついに俺の彼女になっちまった。されちまった。
俺の彼女を作らないという、鉄壁のファイアーウォールを、浅岡さんは見事に撃破してくれたのだ。
周りから嫉妬と羨望の目で見られながら、浅岡麗美との付き合いは大学を卒業するまで続き、社会人になった1年後にゴールイン。......させられた。
俺とした事が......はやまった。
無論、授かったからじゃない。俺は硬派な漢だからな。......嘘ピョ~ン。
それまでの彼女、浅岡は肉食を隠してとても献身的で、かゆい所に手が届くような甘い存在だった。浅岡から漂う匂いも甘くフルーティだったよな。
GA!
ゴールインした途端、羊の皮を被った猛獣が、一日一日と厚い皮を玉ねぎの薄皮のように脱いでいったのだ。あの甘い匂いも段々と腐りかけた玉ねぎのような酸っぱい匂いに変わっていったのだよ。
やはり女は怖かった。
後で妻麗美に聞いて判明したのだが、高校の時なぜ俺にロックオンしたのかって聞いたら......。
「ん、おいしそうだったから!」
ゲェェェ
やはり俺はか弱い子鹿のラム肉だったのね。
テニスコートの前を俺が通る時、わざと見せつけるようにパンツを見せてたんだと。既にあの時から捕獲作戦が仕込まれていたんだよ。
エースを狙っていたんじゃなくて、俺が狙われていたんだよ。
白いパンツは俺を釣る為の餌。女 怖えぇ~。
まぁ妻麗美は頭がいいし美人でスタイルが良くて、肉食を隠してたから両親の受けは完璧だった。
料理や掃除、オヤジのカタモミまでサービスするもんだから、オヤジの目尻はハの字に、鼻の下が伸びる伸びる。
デレ~っとな。
俺たちが帰った後は、オヤジと嫉妬したかぁちゃんがバトルになるのは恒例の事だったらしい。
兎に角だ、男はいつまでたっても「女にゃ頭が上がらん」って事さ。
それでうまくやっていけるのかも知れんしな。
______あれから40年、俺も妻麗美も高齢者になった。子供は既に社会人になって目出度し目出度しだ。
GA!
年末になると恒例の川柳が流行るが、その川柳と同じ事が俺ら夫婦にも起きた。
「おい、お前が履いてるそのパンツ俺のだが」
「あら私のと良く似てるから。今度は色違いにしようかしら」
なぜお揃いのラクダ色にした?
あの日あの時、青空の下、テニスコートの白いパンツが眩しかった。それがどうだ。今は俺のラクダ色した、あそこの穴があるパンツだとも気づいていないのだ。
大体麗美のウエストは俺の1.5倍はあるだろうに。俺のパンツが泣いているぞ。
♪はぁなぁたぁ~ ほ まつほぉ テニスコーほぉ~♪
天地真子だったっけ、あの歌。
あの全校男子生徒の憧れ、テニスコートのマドンナは、いったいどこへ行っちまったんだ? ああ便所か?
ドンドン
「お~い、入ってるのかぁ~? まだかぁ?」
ぷぅ~ スカァ~
まず屁が先に返事をして、それから麗美様のお言葉だ。
「煩いわね、ウンコがしたいなら外でして!」
野糞かよ。
最近昔を懐かしんで思う事がある。
あのマドンナに結局俺も惚れた訳だが、今は目を擦って二度見してしまう。老眼と目ヤニじゃないよ。
だるま堂の二段重ねフルーツ大福が好きだと言っていたあの子、今や妻の麗美もソレに近いのだ。
GA!
それでもこれまでうまくやってこれたのは、妻麗美のお陰だ。
「おい、その三段腹、なんとかならんのか?」
プニュ
この弾力がたまらん。餅みたいで。
と言いながら、二人で日の当たる縁側で、渋い茶を啜るのだ。
結婚記念日がいつだったか、そんなものお互いにとうに忘れている。
強引に結婚させられた妻だったが、今はそれが良かったと思える。
俺のポリシーを貫いて独身を通していたらと思うと、少し背筋が寒くなるからだ。
この歳で一人ってのはね、寂しいと思うからだよ。話し相手が居るってのはいいもんだよ。
茶柱が横になってプカプカ浮いている<土座衛門茶>を飲みながら、普段なかなか言えなかった言葉を妻麗美にかけてやる。
「ありがとう」......いい薬ですって
麗美は太田胃〇じゃねぇが。
GA!
「あんたボケないでよね。介護と費用が大変になるから」
これは麗美の照れ隠しの言葉と受け止めよう。その方が我が家は平和なのだから。
俺は幾つになっても女は苦手だよ。勝てる気がしない。
......俺の名前は浅岡。浅岡 亮だ。
「麗美、これからもよろしく頼むよ」
「な、なんなの今更。お迎えが来たの?」
「なんでもないよ」
今日も我が家は平和だ。
End