第1話 『いつもの生活』
森の中を疾走しながら男は赤い目を見開き雄たけびを上げる。
赤い髪にクッキリとした黒い眉毛に16歳のあどけない表情を見せる少年は、肩に黒猫を乗せて男を追いかける。
そして、枝から枝へと飛び移りながら少年をサポートする少女は凛々しい眉毛をへの字にして少年の後を追いかける。
少女の自慢のストレートの金髪は風に乗って波を描くようにキラキラと揺れる。
フリルの付いた白いワンピースに茶色のライダースジャケットを着て、腰にはレイピアを帯刀している。駆ける足には茶色のブーツを履いている。そして、少女の肩にも白い鷹が乗っている。
「ロア!深追いしすぎないで!」
「慎重すぎ!大丈夫だって相手は下級人魔だよ、マリアねー。マカリア頼む」
肩に乗っている猫は美しい毛並みを逆立て放電させる。
「あなたって、ホント幻獣使いが荒いわね」
「はは、そう言っていつも助けてくれるマカリアが好きだよ」
「ニャ~もうしょうがないわね!」
まんざらでもないマカリアは更に放電して光輝くと刀の形へと収束していく。
その刀は全体的に白を基調として光に当たるとキラキラと輝くほど光沢があり透明感のある刀となった。
「ちょっと、ロア!」
ロアは柄を手に取り刀を鞘から少し抜く。刀身がバチバチと放電して雷鳴を轟かせる。
刀身から放たれる電流はロアの体を駆け巡り身体能力を向上させる。ロアの体からも電気が放電する。
ロアは一旦止まり、利き足に力を溜める。
そして、大きく深呼吸して呼吸を整える。食いしばる歯からも放電が見える。
狩人の目付きになるロアは一気に力を開放して駆ける。そこにはロアの残像が見える程に。
木と木の間を人間の視力ではとらえられない程の超スピードで駆ける。駆けた後には雷のように電流の線が出来る。ロアが通り過ぎた後には木に焦げ目が付いていた。
「もう、あの子はいつもいつも」
ロアの刀身は男を捉え剣先から流れる電流が男を感電させる。
男は感電してゆっくりと倒れていく。
ロアは刀を鞘に納め一息つく。
「余裕!」
男に背を向けてマリアに手を振る、ロア。
「危ない、ロア!」
「え?」
男は倒れるところを踏ん張り赤い目を光らせロアの首を締める。
「く、苦しい!」
「アガぺ!」
「承知、マリア殿いきますよ!」
アガぺと名の付く白い鷹を羽を広げて輝くとマリアの背中に生える天使のような羽に変身する。
そして、マリアは木を縫うように飛行して男の足元に手をかざす。
男の足元から風が巻き起こり一気に大きな竜巻となって男は吹っ飛び後ろの木にぶつかり気を失い倒れると男の体から獣の形をした黒いモヤが出てくる。
「チクショ、モットアイショウガイイニンゲン二ヒョウイシテヤル」
逃げようとする黒い獣に風をまとったレイピアが一直線に飛んできて獣を貫く。
「ギャアア、マダミタサレテナイ、モット、モット!」
そう言い残し黒い獣は霧散する。
ロアも気を失いかけた膝を付く。
「はあ‥はあ、死ぬかと思った」
まるで、天使のように真っ白な羽を背中に生やしたマリヤは羽をはためかせゆっくりと大地に着く。羽は光り輝きアガぺに戻る。
風に巻かれたレイピアはマリアの鞘に戻る。
「マリアねー、ありがとう」
アリアは男の安否を確認して生きていることに安堵する。そして、カツカツと怒りを込めた足でロアに駆け寄りロアの頬に大振りのビンタをくらわす。
「馬鹿!死ぬところだったのよ」
茫然となる、ロア。
「お願いだから無茶しないで。心配したのよ」
ロアの手を握る、マリア。
「ごめん‥」
「いや、ホントに困りますな!ロア様。お戯れはいい加減にしていただかないと」
「ごめん」
白い鷹のアガぺは胸を反らせてロアを見下ろす。
「ちょっと、いつまで握ってるのよ!離れなさい!マリア。ロアは私のものよ」
マリアの眉毛がピクリと動く。
「はあ?何か言いました!」
「いや~怖いにゃ~ロア、助けて」
ロアの背中に隠れるマカリア。マリアに向けて舌を出す。
思わず、帯刀しているレイピアに手をかける、マリア。
「わー、ほら、早くギルドに報告しよ!日が沈みかけてるからギルド閉まっちゃうよ」
レイピアから手を離し心を落ち着かせる、マリア。
「そうね。一旦港町で報酬を受け取って帰りましょうか?」
男をロアが担ぎ町に向かう、一行。
ロアの頬に体を密着させる、マカリア。
横目で口元をヒクヒクさせる、マリア。
「離れなさい、マカリア!」
「い・や・よ!ベー」
また、舌を出す、マカリア。
二人は町に着くまでいつもの通り言い争っていた。
やれやれと見守るロアとアガぺだった。