覚醒
馬車に揺られる。
何時間くらいたったのだろうか、豪華な馬車で座席はふわふわ。おかげでさほど苦痛にはなっていない。本でも持ってくればよかったか。出立までそれほど時間がなかったため、そこまで気が回らなかった。持ってきたものといえば、着替え、少しの食料、そして、伝説の聖剣。
聖剣を胸に抱く。外の景色を眺めると様々な考えが頭を過る。思えば村を出たのだってこれが初めての経験だった。聖剣を胸に抱いているのはお守り替わりのつもりなのだろう。我ながらガキくさい。もう、成人の儀式を済ませた大人だというのに。しっかりしなくては。パンっ、と両手を勢いよく頬に当て、活を入れる。
「ん?なんだ?」
向かいに座っていた使者の人が外を見ると同時に馬車が止まる。
「何事だ⁉」
窓越しに御者に尋ねる。
「野党の襲撃です‼」
窓から様子を見る。馬車を囲むように馬に乗った蛮族風の衣装の男が何事かを叫んでいる。
「出てこい‼金目の物を渡しやがれ‼」
「くっ…‼勇者様はこちらでお待ちください」
使者が腰に下げた剣に手を掛ける。
他の馬車から同行していた戦士魔法使い、僧侶たちが出撃する。
「金目のものなどない‼すぐさまに立ち去れば今なら今回の蛮行、不問にする‼」
使者は勇敢に吠える。
「はっ、うるせぇな‼さっさと金目の物を渡せぇ‼」
交戦が始まる。
最初、戦況は均衡していたが、こちらの後方支援職の魔法使いが弓で手を貫かれたことで旗色が悪くなってくる。
「く、申し訳ございません」
「僧侶‼回復はまだか⁉」
「今やってます‼」
「いけっ‼いまだ、あいつらの首を刈り取ってやれ‼」
馬車の窓から外の様子は明らかに危ない様子だ。どうにかしなければ、どうにか。極度の緊張からか聖剣を胸に抱き、グリップ部分を握りこむ。
―っ…
なんだ?なにか聞こえる。
―引き抜け、我を引き抜け
あの夜のように手の甲に紋章が浮かび光り輝く。
頭の中に声が響き、その声に導かれるように剣を引き抜く。
―敵を殲滅すべし