出立
そこからはとんとん拍子だった。
俺は祭殿に祭られていた聖剣を授与される。最初は戸惑ったが、紋章が浮き出た者に譲渡される習わしらしい。
そして、一週間のうちに勇者誕生の噂は国中に駆け巡った。
そのうちに王国から使者が来た。
「勇者様に国王様から折り入ってご相談がございます。ぜひ王国までご足労願いたく」
おぉ、がんばれよー!!勇者様ばんざーい。
さまざまな歓声が聞こえる。
皆浮足立っている。熱に浮かされているといってもいい。
勇者として王国に向かうのは決定事項らしい。
「仕方ない、行くよ」
そういう運命なのだろう。
人々はその返事を聞いて更に盛り上がる。
出立の日、それは壮大だった。村人全員といってもいいくらいの総出の出立式だ。
全員。周りをふと見まわす。
「ユークリウッド…?」
その中にはユークリウッドの姿が見えなかった。
そういえば、あの夜以降ユークリウッドの姿を見ていない気がする。
「な、なぁ。ユークリウッドをしらないか?」
村人の一人に聞く。
「ユークリウッド?あぁ、そういえばいないな。全く、勇者様の門出の日なのに」
誰に聞いてもそんな返事。誰も行方を知らない。
「勇者さま、そろそろ…」
使者の人は困った顔をする。使いとして俺を連れて帰らないと叱責を受けてしまうのだろう。
「仕方がないか…」
ユークリウッドを探すのは後回しにするしかないか…。
そう、仕方がない。
仕方がない。
見送ってもらいたかったけれど。
ユークリウッドが居ないのはなにか、理由があるのだろう。
そう思う事にした。
祝ってもらいたかった。あいつに一番祝ってもらいたかった。
俺が一番仲の良かった幼馴染に。