勇者誕生
儀式が始まる。俺の他にも今年何人か成人になる子がいる。
最初に事前に組まれていた薪組みに火がくべられる。
火の後ろ側側には祭殿があり、そこには勇者が使用したといわれる聖剣が安置されている。
並んだ子達の前に村長が言う。
「君たちはこれで成人になる。この村から出た勇者のように清く正しい行いをし、正しい心を持った大人になるように」
そんな話をしていた。ぶっちゃけ内容はそんなに覚えていない。
村長は手に持った榊を聖水に浸し、それぞれに子たちに一振りをする。
若干冷たい。何となく雰囲気が変わった気がする。
「さぁ、目を閉じて、手を火に、そして、祭殿にかざすのだ」
皆が目を閉じる。そして、すっと手をかざす。
っつ…。
手の甲に熱い、何かじわっとした痛みが広がる。
辺りがざわつく。人の話し声、まさか、とか、まじかよ、とか。
両肩にいきなり衝撃が走る。
「なんと、なんとなんと!!おぬしまさか」
いきなりの衝撃に思わず目を開ける。
「まさか、お主が…‼」
どうやら村長が両肩を叩いたらしい。奮気味に手の甲を目と鼻の先に手繰り寄せる。
「うむ、うむうむ‼これは間違いない。あのお方と同じ、勇者の紋章じゃ‼」
歓声が上がる。
うおー、勇者の誕生だ‼今夜は祭りだー‼
状況が飲み込めない。なんだこれは。
「ほれ、手の甲を見てみろ」
村長に促され、恐る恐る自らの手の甲を見てみる
「あっ」
思わず声が出る。
それは村に伝わる御伽噺。勇者伝説の絵本に載っている紋章だった。
伝説の勇者様はその紋章が手の甲に浮かんだことで不思議な力が備わり、最後には魔王といわれる存在を倒したらしい。
「俺が、勇者…?」
時間が沸かない。呆気にとられる間に人波に飲まれる。
村を上げての大騒ぎだった。一晩中飲めや歌えの大騒ぎ。なんせ伝説の勇者の誕生なのだ。その瞬間に立ち会えたこと自体が誉で末代まで語り継ぐことの大事件。
未だ実感は沸かないがその喧噪に人々は酔ったのだ。
そして、俺も勢いに飲まれ地に足のつかないまま勇者として祭り上げられる。