二人の夜
そして、二人は祭りの夜を楽しんでいた。
言った通り、肉を食べ、デザートを食べ、町の人々と談笑をする。
お酒も少しだけ。洗礼の儀式が執り行われる人は成人と認められる習わしだ。少しのフライングをしたってばちは当たらない。大人たちも見逃してくれるどころか、逆に進めてくる始末だ。ユークリウッドももう成人しているため一緒にお酒を楽しむ。
「ははっ、楽しいねー」
ほわほわと酔っぱらうユークリウッドはなんともまぁ、いつも以上に能天気だった。
「あー、アホっぽいって思ったでしょー」
「…」
勘が鋭い。無言は肯定の証だ。
「もー、あーくんはひどいなー」
「ふー、ちょっと酔っぱらっちゃた―。少し風に当たってくるねー」
そんな事を言ってユークリウッドは立ち上がる。
ふらふらと、村のはずれの方へ歩いて行ってしまう。
その様子を見て、危なっかしいなぁ、追いかけてやれー。と大人たちにせっつかれる。仕方ない。手間のかかる幼馴染だ。
「あーくん…?」
はずれにある高台。切り株の上に座ってユークリウッドは空を見上げていた。
「なんだ、来てくれたの、優しいね」
「大人たちがうるさかったからな」
「ふふっ、素直じゃないなー。少しは優しい言葉を掛けてくれてもいいのに」
「うるせー、手間かけさせんなよ」
切り株にどかっと座り、手に持ったお酒をひと煽りする。
「あー、いいなー。頂戴!!」
ユークリウッドは俺が煽ったコップをひったくり。ごくごくとお酒を飲み干す。
「おいおい、そんなに飲んで大丈夫かよ」
「んー、心配?」
「介抱するのは俺だからな」
じー、俺の方を見るユークリウッド。その唇からつーっ、と酒の雫が落ちる。滴った酒が緩んだ胸元に吸い込まれていく。
「ねぇ、あーくん。私が今から一緒に村を出てって言ったら一緒についてきてくれる?」
「な、なんだよ、急に」
いつもと違う雰囲気。ほわほわとした雰囲気から一転。妖艶な、そして真剣みを帯びた雰囲気で質問をしてきた。
「私からのお願い。このお願いを聞いてくれたら私にできる事なら何でもしてあげる。なんでも…」
ユークリウッドは俺に身を寄せて、顔を近づける。切ないような、絞り出すような、そして、祈るような。そんなユークリウッドの声。初めて見る彼女のそんな姿に困惑した。
「…そんなの、わかんねーよ」
精一杯出たのがその一言だった。そして、すぐに取り繕うよう、矢継ぎ早に言葉を吐く。
「きょ、今日は洗礼の儀式があるじゃねーか、そう、それが終わったら俺も大人だぜ。そうしたらなんにでも、いくらでも付き合ってやるよ」
「…そっか」
ユークリウッドは立ち上がる。
「うん、そうだよね‼ありがと、そうと決まれば早く村に戻って洗礼の儀式受けなきゃだね‼」
足取りはしっかりとし、村の方に向かっていくユークリウッド。
「早く―、置いていっちゃうよー?」
「あ、あぁ…」
いつも通り、ほわほわとしてマイペースなユークリウッドに戻っていた。さっき立ち上がった瞬間に見せた泣き出しそうな顔は俺の見間違いだったのだろうか?村に向かう彼女の背中からは読み取れなかった。